デジタルの力で地方の老舗企業を飛躍させる。 「この指とまれ」に集まる応援団とともに

  • ソウルドアウト株式会社 北川共史

北川共史(きたがわ・ともふみ)
ソウルドアウト株式会社専務取締役 COO、北川 共史 。1984年生まれ。2007年に株式会社オプトへ入社。2010年にソウルドアウトの立ち上げに参画。東日本・西日本営業部長・営業本部長を歴任し、2018年より営業執行役員に就任。デジタルマーケティングの課題解決力を武器に、全国の中堅・中小企業を最前線で支援し続ける。2019年4月より上席執行役員CRO(=Chief Revenue Officer、最高売上責任者)に就任。2021年3月にはグループ執行役員マーケティングカンパニープレジデント、そして2023年4月より取締役に就任。

日本全国の中小・ベンチャー企業の売り上げ向上を目指し、デジタルマーケティング支援を行うソウルドアウト。13年間、地域の活性化を見据えて事業に取り組んできた北川共史氏は今後地方の老舗企業の支援も強化していきたいと語りました。地方の老舗企業が抱える複雑な課題の解決には何が必要なのか。そこには、デジタルという新時代のツールと、企業やそこで働く人の持つ想いへのフォーカスがありました。

「老舗大国日本」の現実

日本は世界一の老舗大国と言われています。創業100年以上の企業数とその比率が、圧倒的に高い。創業100年以上の企業が約3万3000社で世界の41.3%、200年以上の企業でも1300社以上あり、世界の65%を占めます(2020年。日経BPコンサルティング・周年事業ラボ)。中でも多いのは、製造業・小売業・卸売業です。弊社は、こうした企業のデジタル化支援に積極的に取り組んでいます。

クライアントの一例として、福井県にある増永眼鏡様という会社についてご紹介します。
同社は1905年に創業し、福井県鯖江に眼鏡フレーム産業を興した「ものづくりジャパン」の代表格ともいえる老舗で、昭和天皇に献上する眼鏡も製作されていました。100名以上の社員を製造に従事させ、5~10万円の高価格帯の商品をコアなファンに展開。一方で、コンタクトレンズの普及、眼鏡の低価格化が進んでいく中、国内の売り上げは減少傾向にありました。
以前はネットショップもなく、経営に関する外部からの提案も部分的なものでした。主要都市に展開していた複数の直営店に、どうやってデジタル時代の顧客を流入させたらいいのか。売り上げアップのための道筋を、明確に見いだせない状況でした。

地方の老舗企業が抱える3つの課題と3つの解決策

地方の老舗企業は、3つの共通課題を抱えています。顧客の高齢化、デジタルを活用できる人材の不在、既存国内マーケットの縮小です。弊社は日本全国の中堅・中小企業の皆さまに対して、これらの課題を解決できる存在になりたいと思っています。
課題解決のために必要なことも、3つです。増永眼鏡様の例に沿ってご説明していきます。

1つ目は、未来に向けたビジネスの成長をわかりやすく数字で示すことです。
増永眼鏡様の場合は、我々のチームが現場へ何度も視察に行き、どんな未来を描いているのかを徹底的にヒアリングしたうえで、プレゼンを行いました。老舗の未来については語りづらい部分もありますが、生々しい数字から目を背けないことが大事です。「3年で売り上げ2倍増を目標に。そのために、2024年までにサイトの年間ROAS(Return On Advertising Spend:広告の費用対効果)130%以上を目指しましょう」と成長に必要な投資金額を示して提案しました。

2つ目は、DX(Digital Transformation:デジタル革命)とD2C(Direct to Consumer:自社の商品を、消費者に直接販売すること)を集結・連結することです。

未来戦略において、①直営店舗へのデジタルを駆使した集客 ②ショッピングサイトからの直接購入 この2つを綿密に組み合わせて成長させる第一フェーズをつくっています。
老舗のビジネスは急成長が難しい反面、いわゆる「ご贔屓様」が存在します。一定の顧客がいて、新規の顧客も一度付き合うと長い関係に持ち込みやすい。DXとしての大きな課題は、これまではさまざまな小売店様を通じてつながっていた顧客データを、しっかりとしたサービス体制のもとで増永眼鏡様に直結する顧客台帳に変えていくことにありました。これにより、中間コストをカットできます。その分を、広告運用費やコンサルフィー、D2Cに転換して利益をあげていく。プラスαで資金を持ち出す形ではなく、デジタル運用で軽減したコストをそのまま投資に充てることが可能になります。

3つ目は、リブランディングです。

増永眼鏡様はそれまで50歳以上がメイン顧客でしたが、健全な未来成長のためには、より若い層の顧客を取り込む必要がありました。
現在は大谷翔平選手に代表されるように、世界を舞台に活躍する若き日本人の姿をよく目にします。そうした時代背景も踏まえたうえで、海外マーケットで高い人気を誇っている増永眼鏡様にしかできない企画を考えました。

日本にとどまらず、世界を舞台に活躍する若き「日本の顔」とコラボし、眼鏡らしく「目の前」でサポートする。雄弁に増永ブランドの性能や歴史を語ってもらうという旧来型のことは一切やらずに、その人らしさを一緒にビジュアライズすることに徹する「SNS世代に向けたクリエイティブ」です。
リブランディングコピーは“この国の新しい顔をつくれ”。若者から絶大な支持を得ているアーティスト、ビートボクサ―のSHOW-GOさんをキービジュアルに起用したことで、ネットで一気に拡散されました。

さらに、「眼鏡の試着そのものを未来体験に」ということで、自分のアバターに眼鏡を試着させられるオンラインストアのオープンもサポートさせていただきました。虎ノ門ヒルズのポップアップショップでは、お客様の3Dデータやプロジェクションを見ながら未来撮影できる体験装置を設営するお手伝いもいたしました。ここで撮影した3Dデータは、スマホをはじめ各種ディバイスでご利用が可能となり、自分の自由時間に好みのフレーム購入ができるという未来連携も進めております。とはいえ、眼鏡はネットだけで購入するのはまだハードルがある商品ですので、お店で実物を見て決めたいお客様向けの来店予約フォーム対応もしております。
ユーザーのさまざまなインサイトに合わせ、心から納得いただける仕掛けをサポートしています。
今後は、オフラインの顧客情報をすべてデータ化し、オンラインストアで集まる顧客情報と合わせて1つのデータベースにします。老舗が培ってきた高いLTV(Life Time Value)は、顧客情報をデジタルで一元化することで、大きな収益を生むはずです。

地方を支える「応援団」をつくる

増永眼鏡様のプロジェクトは、博報堂、北陸博報堂の皆さんとチームを組んで取り組みました。先に述べたリブランディングコピーや眼鏡の試着体験などのブランドの強化を軸に、弊社の強みであるデジタルマーケティングを推進しました。

いまは、1つの会社ですべてをやりきる時代ではありません。それぞれの強みを合わせて、大きなうねりをつくっていく。自社の社員だけで解決しにいくのではなく、「こういう事業やりたい」「こういう悩みを解決したい」「こういう世界をつくりたい」という想いを同じにする「応援団」が必要です。
設立からこの十数年で、応援団はどんどん大きくなっています。地方の中小企業やベンチャー企業を盛り上げようと、「この指とまれ」に多くの人が集まってくれています。

応援団をつくるには、まず自分たちが磁石にならないといけません。地方支援にはさまざまな人材が必要であるため、弊社では地方での採用にも力をいれています。東京や大阪へ進学し卒業後は地方に戻りたいと考える人や、地域に根付いている人を中心に採用しています。また近年は、特に理系の人材の採用にも力をいれています。データを扱うことができるDX系の人材が、地方の中小企業、特に老舗企業は圧倒的に足りていないからです。

さらに、地方でビジネスを行ううえでは、「人間力」がある人材も必要です。弊社が地方に多数の拠点を出している理由は、まさにそこにあります。
私たちの仕事は、やろうと思えばオンラインでほとんどのことができます。それにもかかわらず、コストをかけて社員を出すリスクを抱えてまで、なぜ地方へ行くのか。地域の本当の課題に向き合うには、地域に根付かないといけないからです。
その地域で、例えば田植えやママさんバレー、青年会議所のイベントなどに参加します。ビジネスには関係ないように思えますが、そうして初めて「あなたは本気で考えてくれている」と認めてもらえます。自ら地方へ行って、ネットワークや商圏をつくることができる。そういったことができる人材を、どれぐらい見つけて、どれぐらい地域に根付かせることができるかが重要です。

ただし、支援する側の想いだけでは、企業を変えることはできません。企業が再生できるかどうかは、経営者の意思が8割です。明確な理念、成長したいという意思。「想いはあるけれど、資金調達や売り上げ、人間関係など、いろいろな課題がある……」という経営者を積極的に支援したい。そして、経営者の方には、「この指とまれ」に集まってくる会社を信じてほしい。同じ志を持っている人たちと一緒に仕事をすれば、必ずうまくいくと信じています

地方で働く理由の多様性に応える

地方出身の人は、少なからず地方に対する「想い」を持っています。その想いを解放する手助けができれば、地方創生の大きなエネルギーになるはずです。
例えば、いま都心部で活躍しているクリエイターの中には、増永眼鏡様の事例のような、地方の活性化に取り組みたいという人がたくさんいます。しかし、東京で働く優秀なマーケターやクリエイターは、なかなか地方へ行くことができません。特に大企業の場合は、「地方企業からは自社基準のギャランティを払ってもらえないならだめだ」となってしまいがちです。
そこで、さまざまな形で弊社の応援団になってもらって、地方の企業の仕事をしてもらう。企業も、現役のトップクリエイターに自分たちのクリエイティブを考えてもらえたら嬉しいはずです。これからは、そうした選択肢を増やす仕組みもつくっていきたいと考えています。

ソウルドアウトでは、最先端のマーケティングノウハウを取得し、そのノウハウを地方の会社にデリバリーするという目的のため、逆に、地方で採用活動を行い、都市部の企業案件の運用やオペレーションを任せたりもしています。結果、東京と比べて地方で働く社員の満足度は高く、退職率も低いというデータもあります。コミュニティーに属することで得られる心理的安全や地元に貢献できているという満足感、地元にいながら東京や大阪の最先端の仕事ができるというステイタスなど、さまざまな理由があるでしょう。

これらを実現するために、私は会社の「売りポイント」と「売るポイント」は別でいいと思っています。つまり、地方に根差して日本の経済を盛り上げるという弊社の「売り」を掲げながら、地方企業だけではなく全国の企業支援で稼ぐという形でもいい。社員が「どういうモチベーションで働くか」「どういう気持ちで地方企業の未来をつくりにいくか」というマインドが重要だと思っています。このバランスを崩さないようにすることが、経営者としての役割だと考えています。

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