作り手の熱意×ユーザーファースト。オンリーワンでナンバーワンの商品をつくる

  • チュラコス株式会社 與那覇 翔

與那覇 翔(よなは・しょう)
チュラコス株式会社代表取締役社長。1982年生。中学生の時に父親の会社が倒産、家族一文無しを経験。朝から借金取りがきて一時期は家から出られない日々が続く。両親が再起をかけて興した「沖縄特産販売」が成功し、化粧品部門を設立。そこで沖縄の海底泥「くちゃ」を使った白石鹸「いるじゅらさ」をつくり、80万個を売上げ、波に乗って化粧品部門を通販会社として独立させた。

「自分が良いと思うものをつくる」「お客様のためのものをつくる」。矛盾とも捉えられる2つの視点をかけ合わせることで、世にない新しい価値が生まれる――。
最新の美容成分が次々と開発され、流行の移り変わりが激しいスキンケアの世界で、口コミで売れ続けているブランドがあります。「チュラコス」という名前からイメージされる通り、本社を沖縄に置くそのブランドは、シークワーサーや沖縄もずくなど、沖縄産の天然由来美容成分を配合した自然派化粧品を主軸としています。商品開発の基準は、まず「仲間内のため」につくること。そしてお客様の声を聞き、接点を見つける。そこから、独自のブランドが築かれています。

「1人のニーズ」から生まれたヒット商品

当社は、沖縄で化粧品の製造販売をしております。2024年4月に9期目を迎えた会社で、沖縄の天然由来美容成分を生かしたオリジナル化粧品を開発しています。通販で大きくなった会社ですが、これからは海外事業や卸し、リアル店舗での直接販売にも力を入れていきたいと思っているところです。

9期の目標として掲げているのは、「オンリーワンのナンバーワンになる」ということです。

チュラコスでは、仲間内の課題を解決するというところから商品開発が始まることが多いんです。例えば、「ULRUB(ウルラブ)」というホディスクラブは、1人の社員のニーズから生まれた商品です。彼女は「スクラブは好きなのに、敏感肌なので使うと痛い」と悩んでおり、いろんなスクラブを試してみたのですが、肌に合うものがありませんでした。そこで欲しいものが無いなら、理想の商品を自分たちでつくろうと開発したのがULRUBでした。

スクラブは、古い角質や皮脂汚れなどを取り除くものです。ULRUBは敏感肌の方でもお使いいただけるよう、沖縄の海で採れた、粒が細かい塩を使っています。さらに洗い上がりをすっきりさせるために、沖縄のウル(サンゴの方言)の粉末を入れ、汚れの吸着作用を高めています。美容成分や香りも加えてボディソープとしても使える2WAY処方にしました。

ULRUBの始まりは、社員の課題を解決するために生まれた、その人にとってのオンリーワンを目指した商品です。しかし彼女のニーズを深堀りすることで大勢の人にとってもオンリーワンな存在となり、私たちのナンバーワン商品になりました。オンリーワンを突き詰めれば、ナンバーワンになれると気づかせてもらった出来事です。

商品のアイデアは雑談から生まれてくる

私たちの商品の多くは、「こんなのが欲しいよね」という仲間内の雑談から生まれています。みんなで話していると、まだ試作品もできていない段階から「これはたくさんのお客様に喜んでもらえる」と思えることがあります。当社で売れている商品は、みんなそのように考えられ、つくられたものばかりです。

これまで、マーケット分析やペルソナを考えて商品開発をしたこともありましたが、「会議室で話されているペルソナと、実際に使ってくれる方とは、かなり乖離している」と実感していました。架空のペルソナよりも、友達や家族や社員のように身近な世界の人たちの悩みを聞いて商品開発をするほうが深みが生まれるんです。

それに身内や仲間の深い悩みを解決することで、商品にストーリーが生まれます。そうしてお客様にお勧めする理由がどんどん出てくる。商品開発のストーリーが明確で、お勧めできるポイントも明確で、具体的に商品を思い描ける。そうすると、実際に多くのお客様にご購入いただけるんです。

チュラコスには、今、お子さんをお持ちの社員さんが8割以上いるので、お母さん方が受け入れてくれる商品が主力になることが多いです。お母さん方は、朝から家族のために忙しく働いていて、自分に割ける時間も少ないですよね。「時短でコスパがいいオールインワンがいいだろう」「有効成分をたっぷり入れて、自慢できるくらい美しくなってもらおう」「できるだけ肌に優しい、子どもも使える商品にしたらお母さんも嬉しいよね」といったようにアイデアを膨らませます。

使う方がどんなふうに喜ぶかをできるだけ具体的に想像する。そんなところが、会社のカラーになっていると思います。

生き残るために始めた商売

会社が大きくなって、いろんなところで「どんな想いで会社を立ち上げたのでしょうか」と聞かれる機会が増えました。でも私は、最初から世のため人のためにと思って会社を立ち上げたわけではないので、相手の期待に沿った回答ができません。

もともと、父が会社を経営していたのですが、私が中学生のころ、バブルがはじけて倒産してしまいました。いきなり3億5000万円の借金を負うことになり、家には取り立てが押し寄せ、本当に大変でした。チュラコスの前身となる会社をつくって通販事業で再挑戦を始めたのも、「社会のためにこれが必要だ」というような熱い想いからではなく、私たちが生きていくためでした。

最初は、当時の沖縄ブームに乗って、「ぎん茶」という60~70代向けの健康茶や、シークワーサーのドリンクを手掛けていました。顧客システムなんてありません。ノートに手書きした顧客リストをもとに、電話とファックスで通販です。家族6人が、DMと電話で直接お客様に宣伝していました。

メインで扱う商品を化粧品にシフトしたのも「理念ありき」ではなく、必要に迫られてのことです。

ご存知のように、沖縄は台風の通り道です。ちょうどシークワーサーの収穫期になる9月から11月に台風が直撃するんですね。ある年、コンテナが吹っ飛ぶくらいの大きな台風が来て、シークワーサーの木が根こそぎ倒れてしまいました。売るものがなくなってしまったんです。「これはダメだ、農産物は自然の影響が大きすぎて商売の先が読めない」と思い、別の道を探ることにしました。

そのとき頭をよぎったのが、母のことです。母には本当に苦労をかけっぱなしの人生だったのに、いつも仕事ばかりで親孝行も後回しになっていました。仕事一筋の母も、いつの間にか老いて、シミやしわが増えてきてしまった。でも、見た目を気にしていないわけがない。そこで、母を笑顔にできるようなスキンケア商品を考えようと、美容の分野に乗り出しました。

すると、思いのほか良い手応えがありました。商品の良さが口コミで伝わり売上は好調でしたし、従来通り沖縄の特産品を原材料として扱うことで地元に貢献もできる。重い瓶詰のドリンク商品を扱うより、軽くて付加価値の高い化粧品を販売するほうが、原料に左右されずに拡販もできました。

「自分のため」から「みんなのため」に

会社の経営が軌道に乗ると、私も心に余裕ができました。40歳になってみると、20代、30代の頃より成長し、仕事に対する視野も広がります。周りが見えてくると、沖縄にはせっかく良い自然の材料があるのに、後継者が育っていなかったり、高齢化で規模を縮小していたりして、化粧品の原材料が手に入りにくいという現実がありました。サンゴの保護も重要な課題です。

自分だけ儲かればいいという意識ではダメで、こういった地元の課題を誰が解決するのだろう。「私がやらなかったら誰がやる」という使命感に駆られました。

それもあって、人を育てること、そして後世に未来に残すことを真摯に考えるようになりました。会社のブランディングに意識が向いたのもこの頃です。私が亡くなった後も残るのは、会社というブランドです。良いものをつくり続け、お客様と何年にも渡って信頼関係を積み上げ、ずっとオンリーワンのナンバーワンであり続けることができたら、それが回り回って沖縄のため、後世のためになります。

それがブランドの価値だと考えたら、ブランドを継承していける人材を育成するしかないと思いました。だから私は、あまり会社に行かないようにしています。見るといろいろ言ってしまって、社員の自主性を奪いかねません。

私たちが大事にしているのは、徹底したユーザーファーストの姿勢です。頭の中でプランをこねくり回していても良い商品は生まれません。他社商品もいろいろ使ってみて、「もっとこうだったらいいのに」「私だったらこうするのに」という実体験から生まれたアイデアの芽を大事にしてほしい。私もそうしていますし、家族にも世の中にあるスキンケア商品をいろいろ試してもらっています。

当社には、アイデアの芽を育てるための「チャレンジできる土壌」があると思っています。マーケットのデータを重視するのではなく、自分がワクワクする商品をつくりたいという気持ちを大事にしてほしい。

商品が売れるか売れないかには、運もあります。時代の追い風、向かい風もあるでしょう。でも、本気で打席に立たないことには、良い商品は生まれません。常に真摯にお客様と向き合い、チュラコスというブランドを引き継いでいってほしいんです。100年後もチュラコスのブランドが生き残り、そのブランドが沖縄にあることで、沖縄の人たちにも良い循環が起きる。そうなれたら最高ですね。

固定観念に縛られずお客様と向き合う

私は、自分たちが考えているユーザビリティとお客様の満足の間には、乖離があると思っています。最近よく「会社のファンをつくろう」というお話を聞く機会がありますが、「熱狂的な自社商品のファンは、どれくらいいるんだろうか」と考えています。

語弊があるかもしれませんが、私たちのお客様全員が熱烈なファンだと思うから間違ってしまうと思うんです。もちろんブランドが大好きで使ってくださっているお客様もたくさんいらっしゃいますが、選ぶ理由は特になく、なんとなく使っていらっしゃる方もいらっしゃるのではないでしょうか。どんな熱意や気持ちで使っていようが、大事なお客様です。いろんな方がいらっしゃるのに、その気持ちを1つに決めつけてしまうことに違和感を感じます。

同様に、社内でも「商品開発はこういう手法でやらなくてはダメ」と1つのやり方に凝り固まってしまうのはよくありません。マーケットのデータやペルソナに傾倒しすぎないという考え方の根底には、そうした想いがあります。

社内の商品開発にかける熱い想いは大事です。お客様の気持ちになって考えるユーザーファーストの姿勢も大事。でも、それをお客様に押し付けず、きちんとお客様の声を聴いて、第3の案を創造していくことのほうがより大事だと思っています。別の着地点を探ることで、まだ誰も気づいていないお客様のニーズを掘り起こすことができるかもしれません。

私たちはもともと美容の素人として、今のビジネスを始めました。固定観念に縛られていたら、会社を続けている意味がありません。どうせなら、誰もしたことのない、誰にも真似できないオリジナルなことをやりたいと思います。

オンライン・オフラインで沖縄から世界へ

沖縄というところは、日本国内からだけでなく、アジアのハブと呼ばれるくらいインバウンドの旅行者がたくさんいらっしゃる地域です。オンラインでもオフラインでも、同じような構図を実現できたらいいなと思っています。

沖縄には独特の文化と自然があって、時間がゆっくり流れている。その沖縄に癒されたい、沖縄時間を過ごしたいと旅行にいらっしゃる方が多い。世界中どこにいても、チュラコスの商品を通して沖縄を味わってほしい、独特の使い心地に癒されてほしいと思います。

また、リアルの場も大切にしたいです。今、沖縄北部にジャングリア(JUNGLIA)というテーマパークが作られています。沖縄に観光にいらっしゃった方に、自然や文化だけでなく、エンターテインメントという「体験」を提供していくようです。チュラコスも今は通販が主体ですが、今後沖縄にリアル店舗を作り、リアルの場で直接販売することもやっていきたい。加えて、化粧品を作るところから体験できる場所を作ろうと考えています。

他にもさまざまな展開を模索していますが、まずは国内でのシェアを取りにいき、それから海外を目指していきたいです。今、生産が追い付いていないくらいにご注文をいただいているので、万全の体制を整えてからですね。

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