「自分の好きなものしか売らない」。「カレー」で世界に元気を届けるために

  • 株式会社ゴーゴーカレーグループ 西畑誠

西畑誠 (にしはた・まこと)
株式会社ゴーゴーカレーグループCEO兼代表取締役社長。1973年北九州市生まれ。米国でMBA(経営学修士)取得後に帰国し、ヤフー、Apple、Google、メルカリと、大手IT企業の成長期に参画。その後米フードデリバリー最大手DoorDash、また同社が買収したWoltで日本の経営陣として法人ビジネスを拡大。2023年1月にゴーゴーカレーに入社、3月に現職就任。九州男児に由来する「ダンジ」の愛称で親しまれている。

濃厚なルーの上にカツをのせ、そこにソースがかかっている。キャベツの千切りを付け合わせに、ステンレスのお皿にフォークで食べる。ガツンとスパイシーな味で、一度食べたらクセになる。金沢カレーブームの火付け役であるゴーゴーカレーは、次なるステージに事業を拡大させるべく、2023年にIT出身の西畑誠氏が経営を引き継いだ。

西畑氏は、AppleやGoogle、メルカリといった超一流のIT企業を渡り歩いてきた人物で、カレーチェーンという、畑違いの分野の企業を世界に羽ばたかせるために転身。しかし、そこに躊躇はなかったと語る。同社のミッションは、「世界に元気を届ける!!」。そのバトンを受け取った西畑氏は、世界への挑戦をどのように見据えているのだろうか。

ゴーゴーカレーが世界で勝負できる理由

ゴーゴーカレーは、2024年5月5日で20周年を迎えました。新宿に1号店を出してから、現在国内外で約100店舗を展開しています。とはいえ飲食チェーン店としてそれほど規模が大きいわけではなく、国内ではまだまだ進出できていない都道府県がありますが、ゴーゴーカレーの拡大戦略は一般的な飲食チェーン店とは異なります。昨年は、「ゴーゴーガストカレー」を全国のガスト(2023年6月時点で1,281店)で提供したり、ローソンと「カツカレーおにぎり」などのコラボメニューを共同開発したりと、​​店舗拡大だけでなくゴーゴーカレーの味を知ってもらう企業連携の機会を増やしています。

海外進出も加速させていて、インドネシアに11店舗目を4月にオープンしました。​​いま日本の飲食業界には追い風が吹いています。世界的なヘルシー志向も影響して海外での日本食ブームはどんどん拡大しており、海外進出を果たした飲食店は、過去17年で8倍弱にも増加しています(2006年:約2.4万店→2023年:約18.7万店。農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和5年)」より)。また、海外で日本のカレーの人気も高く、世界で食べたい伝統料理の1位に選ばれて話題になりました。(Taste Atlas「Best Traditional Food in the World(世界最高の伝統料理)」2022年)

こうした状況を背景に、ゴーゴーカレーが海外でも勝負できると考えるのには、いくつかの理由があります。

1つ目は、カレーはレトルトパックで管理できるという点です。通常の和食の材料は冷蔵・冷凍で運ばなくてはならないし、それほど長い間保存できません。特に、刺身などは鮮度が命です。それに比べると、レトルトのカレーは常温輸送ができて、保存期間は1年半です。日本で作ったカレーを送るだけで、世界中どこでも同じ品質で提供できます。スケーラビリティがあり、ポテンシャルの高い食品だと思っています。

2つ目は、カレーを提供するのに特別な技術は必要ないという点です。寿司やラーメンの出店には、ある程度修行を積んだ職人さんが必要ですが、カレーならご飯を炊いてレトルトを温めさえすれば、お客様に提供可能です。

3つ目。世界にはインドやタイなどカレーの味になじみがある国もありますが、カレーと白米を一緒に食べる「カレーライス」という日本の食文化は、まだまだ広がっていません。目新しさという点で、広く受け入れてもらえると考えています。

最後に、カレーはもともとローカライズがしやすい料理です。例えば、ゴーゴーカレーのオリジナルレシピでは材料に豚肉を使っているのですが、現在出店を進めているインドネシアでは国民の90%がイスラム教徒で豚肉を食べません。そこで、インドネシアでは豚肉ではなく鶏肉を使ったカレーを提供しています。肉の種類を豚から鶏にしても、大きくレシピを変える必要がないんです。

こうしたカレーの強みを生かせば、さらに世界へと広げることができると考えています。以前、某テレビ番組で取材を受けた海外旅行者が、「私はゴリラのカレーが食べたくて日本に来たんだ」と話してくれていて、ゴーゴーカレーの認知度がグローバルで高まっているのを感じています

カレーで世界に元気を届ける

ゴーゴーカレーの創業者は、野球選手の松井秀喜さんと同郷・同世代で、大ファンです。松井選手がニューヨーク・ヤンキースタジアムで放った開幕満塁ホームランに感銘を受けたことが、起業のきっかけでした。そのため社名も、松井選手の背番号「55」にあやかったものなんです。

そんな経緯もあって、ゴーゴーカレーではさまざまなところで「5」という数字にこだわっています。たとえば、カレーは55の工程を経て調理し、5時間かけてじっくり煮込んで、55時間かけて熟成をさせています。さらに、毎月5のつく日には「ゴーゴーデー」といって、トッピング券を1枚プレゼントしているんですが、​​1号店をオープンした5月5日は、「ゴーゴーバースデー」という記念日になっていて、5枚綴りのトッピング券を配布しています。

最近ではこの「5」へのこだわりも一般的に知られるようになって、いろいろな企業から、「55周年だから」「5周年だから」と「5」にちなんだコラボの相談も増えてきました。「5」にこだわった差別化がブランディングの強みになっているんですね。

昨年の3月にゴーゴーカレーを引き継ぎ、私の新CEO体制がスタートしました。これまで築いてきたゴーゴーカレーのブランド・商品の良さはそのままに、引き続き世界一のカレーの専門商社を目指しています。​​経営が変われど、我々の不変的なミッションは「カレーで世界に元気を届ける」ことです。日本のゴーゴーカレーの店舗で食べていただくだけでなく、さまざまな場所や場面でもっとゴーゴーカレーの味を知っていただきたい、と考えています。

心から好きなものしか売ることはできない

私はずっとIT業界に身を置いてきました。ゴーゴーカレーに移ったことで、「なぜ、未経験の飲食業界に?」と聞かれることがよくあります。自分の中では筋の通った選択をしているつもりなんですが、やはりIT企業から飲食業界へというと、異色だと捉えられることが多いんですね。

私は大学卒業後、そのままアメリカへMBA留学をしてインターネットに出会いました。当時はMicrosoftのWindows95が家庭に普及し、アメリカにインターネットが拡大していった頃で、それは驚きの光景でした。ネット回線をつなげば、自宅のパソコンからショッピングができる。しかも、欲しいものを検索すればすぐに見つかる。「これは便利だ、これからはインターネットの時代が来るぞ」と確信しました。

そこで帰国後ヤフーの入社試験を受け、IT企業でのキャリアがスタートしました。ここで6年間、Yahoo!オークションの企画やプロデュースを任せていただきました。

次のキャリアとして「仕事には営業のスキルが必須だ。英語もビジネスで使えるレベルに磨いておきたい」と考えて、Appleに転職します。当時は、まだiPhoneも出ていない頃です。そこからAppleがiPhone、MacBook Air、iPadとヒット商品を連発して世界的な大企業になっていく過程で、私は大切なことを学びました。それは、自分が心から好きになれる商品でなければ、大切なお客様に売ることはできない、ということです。

例えば、iPhoneを自分で使わずに「これ、いいんですよ」とお客様に言っても伝わりません。自分で実際に使ってみて、本当に便利だと感じて、好きになる。そうして「こんな素晴らしいものを知らないなんてもったいない」と、お得情報を教えるくらいの感覚にならなければ、本気で「これ、便利なんですよ」とは言えません。

その後も、GoogleやメルカリなどのIT企業で働きましたが、「自分自身が好きでなければ、その企業や商品に携わらない」ということをモットーに仕事を選んできました。その気持ちは、ゴーゴーカレーでも同じです。私は入社前からゴーゴーカレーが大好きで、店舗でもよく食べますが、自宅にも常にレトルトカレーがあります。少なくなったら、公式通販サイトで50食セットを買うんです。家族もみんな大好きで、休日のお昼はいつもゴーゴーカレーを食べています。金沢カレーの特徴的なドロッとした濃厚なルーや、ガツンと来るスパイスの味がやみつきになって、入社前から大ファンでした。

私にとって、自分が好きなこの味を世界に広めることができる、それに、これまで培った経験やスキルを新しいフィールドで生かせるという挑戦にワクワクし、転職には何の躊躇もありませんでした。

異業種からも多くの新しい仲間を招き入れ、今まで典型的な飲食企業だったゴーゴーカレーに、テック企業の新風を吹き込んでいます。店舗スタッフ以外はリモートワークを浸透させて、個々人が働きやすいワークスタイルを選択できるようにしたり、ITツールの導入で仕事の効率をあげたり、外食企業の中でも、新しい取り組みに積極的なほうだと思います。

東京から金沢へ、金沢から世界へ

ゴーゴーカレーの1号店は東京ですが、昨年、本社を東京から石川県金沢市に移しました。創業当時は、「金沢カレーブームを興すならやはり(川の)上流からだろう」という思いがあったのですが、やはりわれわれの原点は金沢です。それに金沢カレーを名乗る以上は地元に貢献したいと考えて、ふるさとに恩返しするつもりで金沢に戻りました。自社工場も金沢に置いていますし、ゴーゴーカレーは、金沢カレー協会の正会員でもあります。

ほかにも、Jリーグ基準を満たす北陸初のスタジアムのネーミングライツを獲得し「金沢ゴーゴーカレースタジアム(愛称:ゴースタ)」と命名しました。ここで試合が開催されるときには、ゴーゴーカレーのキッチンカーが出動して観客の皆さんにも食べていただいています。

私は北九州出身で、石川県にはこれまで縁のない人生でしたが、とてもいい場所だと感じています。特に金沢はコンパクトなエリアの中にたくさんの見どころがある、アミューズメントパークのような街なんですね。北陸新幹線のおかげで東京から2時間半で行けますし、おいしいものもたくさんあります。もちろん、ゴーゴーカレーは石川県内に15店舗、金沢駅(金沢百番街あんと内​​)に​​もあります。

北陸はイベントやお祭りが多く、参加することで人との関係が近くなるという長所もあります。例えば新幹線開業に合わせて2015年から始まった「金沢マラソン」では、31キロ地点に金沢カレー協会がエイドステーションを出していて、全国からやってくるランナーの皆さんにカレーを提供しています。走りながら金沢グルメを味わっていただこうという趣向ですね。「これが食べたくて金沢マラソンに申し込みました」とか「金沢カレーのために走りました」と言ってもらえて、金沢カレーの人気を実感しています。

このように、石川で地元の皆さんと交流を深めたり、地域の顧客基盤を拡大したりできる機会が多く、ありがたく思っています。そして、今とても重要なのが、今年の1月1日に発生した能登半島地震の復興への協力です。地元企業としてできることをしたいと、「復興ゴーゴープロジェクト」を立ち上げました。早期からの被災地での炊き出しに加えて、2月には約7万6千食のレトルトカレーの寄付を石川県に申請しました。また、輪島や珠洲から金沢市内に二次避難されてきている方に少しでも元気を出していただけるよう、温かいカレーを無料で提供する機会もいただきました。被災していたゴーゴーカレーの輪島店も、3か月と16日ぶりに水道が復旧して、金沢カレーの特徴である銀皿での提供が再開できるようになりました。​​

公式通販サイトでは復興応援商品を販売しており、5食入りセットを購入していただくと売上の一部が寄付されます。また、5月5日のゴーゴーバースデーの20周年記念企画として「復カツカレー」を5月いっぱい販売します。これは2011年の東日本大震災のときに提供した特別メニューで、今回は一皿につき55円が寄付されます。ロースカツカレーにチキンカツをのせた“複数のカツ”と被災からの“復活”を応援する意味で「復カツカレ ー」として10年ぶりに復活させ、被災地支援に役立てていただこうと「石川県令和6年能登半島地震災害義援金」に寄付します。​​私たちのカレーを通して、少しでも元気を届けたい。日本中で食べてくださる方々、世界中で食べてくださる方々、そして地元で食べてくださる方々。より多くの人に食べていただけるよう、これからもミッションの実現に取り組んでいきます。

 

画像提供:PR TIMES

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