久保木勇耶(くぼき・ゆうや)
株式会社クロスメディア・パブリッシングコンテンツデザイン室室長。「STORY AGE」編集長。鳥取県出身。広告会社での営業・編集職を経て、2014年MOKU出版に入社。月刊『MOKU』のライター・編集者として勤務。ビジネス書出版社の編集長などを経て、2022年にクロスメディア・パブリッシングに入社。現在は書籍編集のスキルを活かし、「企業内編集部」のサービスに携わる。
日本の各地方、および地方企業は潜在能力に溢れています。地方企業が持つ商品・サービスの魅力が多くの人に伝わるようになれば、日本中、世界中で暮らす人々に、自慢の商品を手にしてもらい、洗練されたサービスを受けてもらうことができます。
地方企業の潜在能力を信じ、そのポテンシャルの花が咲き誇るように支援したい。そんな想いを共にする5社が集まり、それぞれが持つ専門領域のノウハウを伝える場を設けることになりました。本記事は、3日間にわたって行われたウェビナーのSession1〈第1部〉を記事化したものです。「企業の想いをストーリーとして届ける」という視点から、地方企業の魅力を伝える方法を解説します。
※本記事は2024年3月にクロスメディアグループ株式会社、株式会社SUPER STUDIO、ソウルドアウト株式会社、株式会社PR TIMES、株式会社ロケットスターが共同で開催したウェビナー「あなたの商品・サービスのファンを日本全国につくるために、私たちができること」の内容をもとに文章化し、加筆・編集を行ったものです
見る人の記憶に残る情報発信を
いまはインターネットやSNSが発達し、日々、人ひとりの脳が処理できる量を遥かに超えた情報が集まってきます。企業にとって、情報発信がしやすくなったという恩恵がもたらされた一方で、膨大な情報の中からお客様に自社や商品・サービスを認知してもらわなければいけない。ここにまず、大きな課題があります。
よく言われることではありますが、高度経済成長期には「3C(カラーテレビ・クーラー・カー)」と言われるように、人が欲しいものはある程度共通していました。それがいま、生活に必要なものはひと通り揃っています。しかも、多くのものが高機能で便利。機能面では、大きな差をつけることは難しいと言えます。
例えば3万円の炊飯器と5万円の炊飯器では、炊き上がるお米にそれほど違いは感じられないと思います。もちろん、「少しでも高機能なものを」というニーズはありますが、自分の好きなもの、こだわりのものといったように、分野が限られています。
また、企業からの情報発信も難しいと言われています。先ほども申し上げたように、発信される情報量そのものが増えている。それに、SNSで不快な広告が増えている、またインターネット上の情報の多くはビジネス的な作為があると誰もがわかっているといった背景から、情報の信頼度が落ちているといったこともあります。
情報量が多い、差別化ができない、企業側からの発信も難しい。その状況で自社やサービス・商品の魅力を届けるためには必要なのは、見る人の記憶に残る情報発信です。そうした情報を、私たちは「ストーリー・コンテンツ」と定義しています。
スタンフォード大学ビジネススクールのジェニファー・アーカー教授の研究によれば、ただ事実や数字を並べるより、「ストーリー」として伝えることで、22倍記憶に残りやすくなるそうです。
ただ、私たちが定義する「ストーリー」とは、起承転結や時間軸のある「物語」に限らず、広く捉えています。企業や経営者、社員が持つ想い・価値観といった情緒的な部分を言語化したもの。例えば、パーパスやビジョン、ミッションなどもストーリーです。
日本の多くの企業は、自社のこだわりや価値観について、商品やサービスを通して世の中に伝えていこうという意識を持っていても、経営者や社員など「人」の想いや価値観を伝えることはまだまだ一般的ではありません。お客様に興味を持ってもらうためには、そうした風潮を変えて、どんな人がどんな想いでビジネスを行っているのかをしっかり発信していかなければいけません。
企業の持つ想いや価値観を言語化する
私たちはビジネス書専門の出版社を母体としたグループで、本のほかにもメディア記事や広報誌などさまざまなコンテンツを提供しています。その制作過程で企業にお話を伺うと、大切なことを言語化できていないことが多いと感じます。
例えば、下記のような事柄について、皆さんの会社ではどのように答えるかを考えてみてください。
・なぜそのビジネスをしているのか
・どんな想いで商品やサービスを作っているのか
・ビジネスを通して社会にどんな貢献をしたいか
・他社と比べた自社の特徴や強みは
・自社の商品やサービスをどのような課題を解決するのか
・自社の商品やサービスを一番使って欲しい人は
・経営する上で絶対に外せないことは
・従業員にどのように働いてほしいか
・自社の中で称賛される行動は
いかがでしょうか。意外に言葉にならないものも多いと思います。
しかし、上から3つずつ、「ブランディング」「マーケティング」「採用・インナーブランディング」につながる要素です。そう考えると、企業の情報発信には欠かせないものばかりだとお分かりいただけると思います。これらをストーリーとして言語化して、もっと世の中へ伝えていくことが求められています
書籍で余すことなくストーリーを伝える
では、どのようにしてストーリーを言語化し、発信するのか。
まずは出版です。当社が企業様の書籍を作るときには、編集者が取材前に最低でも2時間×2回のヒアリングを行い、詳細な構成を立てます。その上で、平均して2時間×5回の取材を行います。その過程で本人も自覚していなかった本質的な想いや考えが引き出され、言語化されます。
本づくりを通して、「こんなことを考えているとは思わなかった」「すごく頭の中が整理された」と言っていただくことも少なくありません。さらに、そこでの発見から、クライアント様の新しい事業が生まれるケースもあります。
また、ビジネス書は一般的に8万字前後の分量ですが、取材を終えた時点では20万字ほどの文章になります。そこから不要な部分を削除し、内容を分類・整理し、わかりやすい文章に書き換えていきます。この過程が、ストーリーを磨くことにもつながります。
このように、書籍は自社が持っているストーリーを余すことなく伝えることができます。その1冊を取引先やお客様、求人応募者に渡せば、自分たちの大事にしていることが全てわかってもらえるわけです。
それに、本は「最強の名刺」とも言われます。出版は斜陽産業と言われますが、本の持つ権威性はまだまだ健在です。Amazonで検索すれば自社や経営者の名前が出てくるということは、ビジネスをする上での信頼感にもつながります。
メディアでより多くの人々へストーリーを届ける
ストーリー・コンテンツの発信方法として、次にオウンドメディアです。ここで言うオウンドメディアは、コーポレートサイトとは異なり、自社名を出さずに中立的な立場で発信するサイトです。いわゆる「宣伝臭」を感じさせず、客観的な情報発信が可能です。
一例として、当社ではある弁護士事務所のオウンドメディアを制作・運用させていただいています。「弁護士に相談に来るのは、どうしてもトラブルが起きてからの場合が多い。しかし、その手前で防げることもたくさんある。あらかじめ法律の知識を持っておくことの大切さを伝えたい」という想いからご相談をいただきました。
また、最近はコーポレートサイトにブログを載せるケースも増えています。あるクライアント様のサイトでは、「プロジェクトをどう進めていったか」「どんな困難があったか」「なぜそれほどの熱意を持ったのか」などのインタビュー記事を作成させていただいています。公開後、社内からは「部署の中にいる人の考えが社内に浸透していい雰囲気になっています」という声も上がっているそうです。
メディアを通した発信のメリットは、やはりネットを通して多くの人に届く可能性があることです。また、発信した情報を資産化することもできます。例えば、自社の価値観をまとめた文章をAIに読ませてアウトプットさせることで、新入社員のマニュアルを作ることも可能です。近い将来、マーケティングやブランディング、PRのための発信もAIがつくってくれるようになるでしょう。そのもとになるコンテンツは、今後さらに価値が上がっていくはずです。
そのほか、ストーリー・コンテンツは、セミナーや講演、社内報、パンフレット、プレスリリース、自社EC、広告など、いろいろな場面に使えます。また、現在はSNSを自社で運営し、広く読まれている企業様もあります。ブログやnote、ホームページなどで自分たちはどんなことを大事にしているのか、どんなふうに商品を作っているのかを発信するだけで、クライアントや消費者が持つイメージは変わります。自社の持つ想いや価値観を言語化し、普段から活用していきましょう。