荻原猛(おぎわら・たけし)
株式会社ロケットスター代表取締役社長CEO。中央大学大学院戦略経営研究科修了。経営修士マーケティング専攻。 大学卒業後、起業するも失敗。しかし起業中にインターネットの魅力に気付き、2000年に株式会社オプトに入社。2006年に広告部門の執行役員に就任。2009年にソウルドアウト株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2017年7月に東証マザーズ上場、2019年3月に東証一部上場。2022年3月に博報堂DYホールディングスによるTOBにて100%子会社化。博報堂グループにて1年間のPMIを経てソウルドアウト取締役を退任。2023年4月に株式会社ロケットスターを設立し、代表取締役社長に就任。50歳で3度目の起業となる。
日本の各地方、および地方企業は潜在能力に溢れています。地方企業が持つ商品・サービスの魅力が多くの人に伝わるようになれば、日本中、世界中で暮らす人々に、自慢の商品を手にしてもらい、洗練されたサービスを受けてもらうことができます。
地方企業の潜在能力を信じ、そのポテンシャルの花が咲き誇るように支援したい。そんな想いを共にする5社が集まり、それぞれが持つ専門領域のノウハウを伝える場を設けることになりました。本記事は、3日間にわたって行われたウェビナーのSession3〈第2部〉を記事化したものです。起業家を増やし、全国、世界へと羽ばたく企業をつくるサーチファンドについて解説します。
※本記事は2024年3月にクロスメディアグループ株式会社、株式会社SUPER STUDIO、ソウルドアウト株式会社、株式会社PR TIMES、株式会社ロケットスターが共同で開催したウェビナー「あなたの商品・サービスのファンを日本全国につくるために、私たちができること」の内容をもとに文章化し、加筆・編集を行ったものです
低リスクで社長になれる「サーチファンド」
われわれロケットスターは、サーチファンドを通じて社会をアップデートしていきたいと考えています。具体的には、起業家を増やして事業承継を実現させることです。そして中小企業をベンチャー化させ、稼ぐ力をパワーアップすることで、雇用と納税にも貢献していきます。
サーチファンドとは、社長候補(サーチャー)を起点に中小企業を買収し、企業価値向上を目指すPEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド:非上場企業の株式への投資を行うファンド)です。
「社長になりたいけれど、起業はリスクが高い」と考える人はたくさんいます。起業においては、能力だけでなく、どれだけリスクテイクできるかも課題になります。それまでもらっていた月給はなくなり、貯金も崩してと、非常に厳しい状況になりえます。家族からの心配もあるでしょう。
ただ、経営者にふさわしい能力を持つ人は日本にたくさんいます。そこで有効となってくるのがサーチファンドの仕組みです。
われわれは「社長をやりたい」という方にお会いして、まず事業案を聞きます。そこでお互いに「いいですね、やりましょう」となったら、サーチャー(社長候補)契約を結び、ロケットスターとサーチャー(社長候補)とで徹底的に戦略をブラッシュアップしてから、買収先となる企業を探します。
買収先候補になるのは、潜在能力はあるのにもかかわらず、そのポテンシャルを十分に発揮することができていない企業です。マッチする企業が見つかればロケットスターがその会社を買い、社長をサーチャーに任せ、われわれと一緒に経営してもらいます。事業がある段階まで成長したら、MBO (マネジメント・バイアウト:経営陣による買収)する。つまりサーチャーにロケットスターの持つ株を売却しますので、オーナー社長になれるということです。 このように、最初は雇われ社長でも、経営力を発揮して事業成長できればオーナー社長になれる仕組みなのです。その過程を低リスクでチャレンジできるというのが、サーチファンドの仕組みなのです。
企業のサイズ感のことを「キャップ」と表現しますが、ロケットスターの場合、ミドルキャップではなくマイクロキャップやスモールキャップといわれる企業を買っています。大企業の子会社などといった規模ではなく、もう少し小さな中小企業を買収して経営します。
具体的には、M&A仲介会社や地方銀行と連携し、主に上場企業の子会社を探します。要するにカーブアウト(子会社や事業の一部を分離させること)ですね。事業領域は新市場創造ではなく既存市場を選定し、デジタル化によって拡張可能な土台を作り、デジタルマーケティングのノウハウを最大限駆使し、3年で社長への売却を目指します。その後は「上場したい」「もっと価値を上げて売却したい」「横ばいでも毎年1億円が入ってくるようにしたい」など、どうするかは本人の自由です。
ただし、会社を大きくするのは簡単ではありません。われわれは、まず経常利益1億円を基準にしています。この基準を達成するためには、社長・経営チームが競合に打ち勝つ収益モデル、マーケティング・営業、IT活用などいろいろなものが必要です。ただ、経常利益1億円を達成するまでは、資金調達や組織開発、マネジメント育成などは不要だと思っています。この段階では、社長が事業の最前線に立つことが大切です。この方法で、経常利益1億円を超える会社を量産することを目指していきます。
社長候補に必要な条件
中小企業の経営のためには、優秀な人材を探さなければいけません。ロケットスターのインセンティブプランとしては、まずMBOを推奨しオーナー社長への道を提供します。それから、その時点で本人が得ている給与を全額保障します。ストックオプションとしても10%、さらに出資したいということであれば10%、最大20%のエクイティー(株主資本)を持つことができます。
ただし、中小企業の社長になるためには条件があります。
まず、社長候補は人格者でなければいけません。これはかなり重要なポイントです。また、前職で大きな成功体験があるか、どれだけ意思決定をしてきたかも大切です。これらの経験や素質がなければ、社長としてビジネスを牽引していくことは難しいでしょう。
それに、買収先となるマイクロ・スモールキャップは大企業のように強いブランド力があるわけではないため、営業力が強くなければいけません。また、チーム経営を行うために、必ず1人以上の相棒を連れてきてもらいます。
加えて、社長に必要なのは起業家マインドです。社長はクライアントからクレームを受け、株主や銀行から経営について指摘され、社員や家族からも非難されてと、四面楚歌どころではありません。本当に大変な仕事です。アントレプレナーシップを持ってやり抜くマインドでなければ、社長になるのは難しいと思います。
現在、サーチャー候補は「大企業のMBAホルダー」「PE/コンサルタント出身」「ベンチャーミドル(執行役員や子会社社長)」「起業家」の4タイプが多くなっており、8割が紹介です。たくさんの方とお会いする中で、特にベンチャーミドルとは相性が良いと感じています。
サーチャー契約は現在6名と結んでいます。
いずれはナンバー2や財務役員といった人材も集めて、設立した会社にどんどん送り込もうと考えています。そのための専門の紹介会社もつくりました。
また、サーチャーの地方希望比率は約半分です。地方比率はかなり高いと言えるでしょう。将来的には起業した会社をグループ化しようと考えています。そうすれば、社長同士で悩みを共有できます。
それからアドバイザリーボード(顧問委員会)も構築しています。創業社長や上場社長10人以上をメンターとして用意し、その方々への相談を促す。新しい社長に経営を一から教えるのです。数年後には素晴らしい経営者がたくさん生まれているはずです。
同業他社を水平買収し規模を拡大させる
私は地域の企業の業績が上がれば、東京などへの一極集中は解消できると考えています。地域の経営者の頑張り次第で、日本は変わるはずです。もちろん拡大がすべてではありませんが、ポテンシャルのある地方の企業にはどんどん大きくなってほしいんです。
そのために、最後にロールアップについて少しお話しします。ロールアップとは、同業種の企業を多く買収することで、市場シェアを拡大しバリューアップさせていく戦略です。管理部門の統合や技術などでも経営効率化が図られると言われています。
小さな会社が一生懸命頑張って伸びていくことはもちろん素晴らしいことですが、会社の規模が小さければ成長は限定的なものになります。1社をチューニングするだけではなく、同業種の会社を何社も水平買収し、規模を生かして生産性を向上させる。ポテンシャルあふれる会社がそうした手段で規模拡大を目指していくのも、今後一つの手段となっていくのではないでしょうか。
現在、大々的に告知をしているわけではないのですが「社長をやりたい、勝負したい」という人材がかなり集まってきています。会社の売却に関する相談の連絡も多数あります。「人を集めたい」「M&Aでこういう会社を見つけたい」「サーチファンドの事業で一緒にやってみたい」「サーチャーでトライしてみたい」「業務提携してみたい」という方は、ぜひお声掛けください。
われわれはこれからつくるすべての会社において、全国展開や世界を見据えた経営を進めたいと思っています。今はAIによって、小人化を含めて小さい企業が大きく羽ばたくことのできる、ロマンチックな時代です。共に社会をアップデートしていきましょう。