真野勉(まの・つとむ)
株式会社SUPER STUDIO 取締役 CRO。1987年、東京都出身。青山学院大学を卒業後、ITベンチャー企業へ入社し、セールスとして同社の東証マザーズ上場に貢献。2014年にSUPER STUDIOを共同創業し、現在はCROとして企業間のアライアンスをリードしている。
日本の各地方、および地方企業は 潜在能力に溢れています。地方企業が持つ商品・サービスの魅力が多くの人に伝わるようになれば、日本中、世界中で暮らす人々に、自慢の商品を手にしてもらい、洗練されたサービスを受けてもらうことができます。
地方企業の潜在能力を信じ、そのポテンシャルの花が咲き誇るように支援したい。そんな想いを共にする5社が集まり、それぞれが持つ専門領域のノウハウを伝える場を設けることになりました。本記事は、3日間にわたって行われたウェビナーのSession2〈第1部〉を記事化したものです。「自社EC」を通して、商品を広くお客様に届ける方法を解説します。
※本記事は2024年3月にクロスメディアグループ株式会社、株式会社SUPER STUDIO、ソウルドアウト株式会社、株式会社PR TIMES、株式会社ロケットスターが共同で開催したウェビナー「あなたの商品・サービスのファンを日本全国につくるために、私たちができること┃Session2:商品・サービスを実際に体験してもらう〈第1部〉」の内容をもとに文章化し、加筆・編集を行ったものです
売れるECと売れないECの決定的な違い
当社では、ecforceというEC構築システムを中心に、コンサルティングサービスやサプライチェーン支援のサービスを提供しています。その経験から、売れるECショップと売れないECショップの違いについてお話しします。
まず、よくある誤解についてです。売れるためには、唯一無二な商品力や特殊な広告出稿のノウハウ、独自の集客手段や秘密の販売スキームなどがなければいけないと思われる方も多くいらっしゃいます。これらはあれば強い要素ですが、再現性はなく、必須なものではありません。意外かもしれませんが、裏ノウハウや独自の強みは、成功したECショップの共通項ではないんです。
もちろん年商2000万円のECショップと年商3億円を超えるようなECショップを比較すると、商品力やブランディング、独自の集客手段など明らかな差別化要素がある場合もあります。しかし大きく売上を伸ばすECショップに、これらの要素が共通しているわけではありせん。
年商1億円、3億円、5億円を達成するECショップに唯一共通しているのは、EC構築システムを最大限に活用したショップの動線設計です。つまり、お客様が買いやすいECショップの設計になっているかということです。
ECを始める際、まずショップ作りに注力しなければいけません。しかし、ここを後回しにして商品が売れてから力を入れようとする方が非常に多くいらっしゃいます。大きく分けて3パターンほどあります。
まず1つ目のタイプは、集客のことばかり考えたり、裏技的なテクニックばかりを探したりする「集客屋さん」「飛び道具屋さん」です。
そして2つ目は、商品が売れていないにも関わらず、ステップメールやLINE接客などのCRM(顧客会計管理)を設計したり、コミュニティを作ったりする「CRM屋さん」「コミュニティ屋さん」です。ショップに来て商品を買ってくださったユーザーのためになることを先に考えてしまうタイプです。
最後に3つ目は、ブランディングやクリエイティブばかりに力を入れてしまう「ブランディング屋さん」「クリエイティブ屋さん」です。本当に良い商品を作ることは非常に大事なことですが、ブランドを立ち上げたばかりの初期は、それだけでは広がっていきませんしコストがかさみます。
もちろん集客・CRM・ブランディングはいずれも大切な要素です。しかし、ショップの売れる動線作りをせず、今優先すべきではないことに力を入れていては、大きな成長は期待できません。まずは商品を買っていただかないことには何も始まりませんし、土台の部分である「ショップ作り」をやらないと、すべてが無駄になってしまいます。
売れているショップが重視する2つのこと
売れているショップが重視していることは、大きく2つあります。集客手段よりもCVR(顧客転換率)を高めること、CRMよりも購入時LTV(顧客生涯価値)を広げることです。
売れていないショップや停滞しているショップは、購入までのステップが多く、機会損失率や離脱率が高い状態、いわゆる「かご落ち」が多い状況に陥っています。「かご落ち」は一般的に平均70%程度で、ここをいかに減らすかで売り上げが大きく変わってきますし、最も改善の余地があるポイントです。さらに、定番商品を作った後の動線などをうまく設計する、また、一度購入していただいたユーザーにアップセルする仕掛け作りも大事です。
ECショップの立ち上げ時には、このように再現性をもって成長し続けられる鉄則をしっかり押さえる必要があります。要するに「商品が見えにくい・買いづらい」ところを、「商品が魅力的に見えて、購入までスムーズで買いやすい」状態にするべきということです。
ECだけでなく、リアル店舗でも売れているお店はここを重要視していると思います。例えば某有名衣料品店のリアル店舗は、動線が整理され、レジもデジタル化されており、意識せずとも買いやすい設計になっています。
リアル店舗もECショップも、売れ続けるショップが必ず抑えている鉄則は同じです。購入ステップを最短化できている、退店・離脱を最小限に抑える動線に整理されている、ユーザーが買いたくなる動線設計になっている、ユーザーがよりお金を使いたくなる定期販売の導入やステップアップセルの促進がきちんと設計されている。このように、買いやすい、あるいはもっと買いたくなるための仕掛けを必ず導入しています。
売れるショップに整えてから、集客に挑みましょう。良い商品を置いていても動線がおかしければ、コストをかけて集めたお客様もショップを出て行ってしまいます。
売れ続けるショップをつくるには
売れているショップの基本導線を、ECに置き換えて設計しましょう。売れ続けるショップの構築において再現性高く成果を出せるポイントは、「入口ページ」・「購入」・「再購入」の3つです。
入口ページでは、LPとブランドサイトがハイブリッドになることが大事です。購入いただくときのフォームとアップセルの設計、再購入を促す仕掛けも欠かせません。それぞれにやるべきことはたくさんあります。
例えばLP設計においては、買いやすいページ作りをすることや決済手段の拡張、購入したいと思わせる導線設計や動画クリエイティブ、記事LPやアンケートLPの活用などを行います。この部分の設計がまず必要です。
一番重要なのは、「購入」におけるLPフォームです。誰でもECでモノを買うとき、購入までの導線が長くて離脱してしまった経験があると思います。それをいかに最小限にできるか、常にブラッシュアップしなければいけません。最近はチャットの導入が流行っています。LINEでメッセージをやり取りするように、スムーズに購入できることがCVRを高める施策にもなっています。
また、購入後の熱量が高いタイミングで、新しい商品の紹介よりもお得な情報を届けることが大切です。購入完了画面でのアップセルやクロスセルも設計し、「再購入」を促しましょう。
では、3つのポイントにおいてすぐに効果を出すにはどうしたらよいか。「入口ページ」でいえば、LP内の導入設計を最短化する場合、フォーム一体型LPや確認画面スキップを使って、いかに動線を短くするかが肝になります。フォームについては、チャットの導入やクリエイティブの見直しといったノウハウが蓄積されているので、成功事例として既にあるシナリオ設計を導入しましょう。
また、ECにおいては決済手段の拡張も重要です。クレジットカード以外に後払い、PayPayなどのQRコード決済やキャリア決済、Amazon Payなどの導入もCVRを高める施策になります。
「購入」においては、離脱防止のためのポップアップの設計やインセンティブの設計を進めましょう。また、「再購入」を促しLTVを改善するには、サンクスページ画面でのクロスセルやCS(顧客満足度)を高める仕組みを自動化します。お問い合わせが来たときもチャンスです。どう誘導するかを事前に考え、設計しておきましょう。
自社ECで事業を伸ばす企業の事例
これらの設計を実践した結果、化粧品やサプリメント、食品などのショップで、大きな成果が出ています。それまでCVRが不安定だったショップでも、右肩上がりに成長しています。ここから集客やCRM、ブランディングに注力していけば、結果は自ずと最大化されていくはずです。
熊本県にある、ドモホルンリンクルで有名な再春館製薬所様は、ECショップの構築を最短でできるというところで、新規事業である「Lashiku(ラシク)」でecforceを導入いただいています。新たな顧客の獲得機会の創出やWeb広告からの新規顧客の獲得、定期販売の実施など、新たな施策に取り組まれていましたが、売上向上や顧客獲得効率の向上といったさまざまな成果が出ています。
宮崎県にあるタマチャンショップ様は、楽天市場・AmazonなどのECモールで大きな成果を出していらっしゃいましたが、ECモールだけではタマチャンショップの伝えたい世界観を伝えきれないという想いがあり、自社のECショップを構築するためにecforceを導入いただきました。当時ECモールでは実現できなかった定期販売を実装し、コミュニティマーケティングなどのCRM施策にも力を入れ、ユーザーのファン化を促進できたことで売上が大きく伸びています。
福岡県にあるベンナーズ様は、未利用魚のサブスク通販「Fishlle!(フィシュル)」で、定期購入をメインに事業を展開するためにecforceを導入いただきました。システムの課題が減り、マーケティングがしやすくなったことでお客様との接点が広がり、ファン化やブランディングに力を入れられるようになったそうです。
同じく福岡県にあるOxxx様でも、冷凍幼児食ブランドの「mogumo(モグモ)」でecforceを導入いただいています。対面に近いEC設計で、ecforceの定期管理機能を活用しながら顧客体験価値を最大化させることに成功し、お客様との接点が増えていったというお声をいただいております。
以上、地方企業様の事例をご紹介しました。どの企業様も、顧客との接点やファン化を軸にしていくためにECの導線を整えていきたいというお話をいただいたことをきっかけに、支援させていただきました。ecforceのブランドサイトでは、ecforce導入企業様の事例やノウハウをもとに作った施策大全、ECモールの運営やリスクマネジメントに関する資料を無料で公開しています。また、EC/D2Cのノウハウについて大事なポイントをまとめた書籍『D2C THE MODEL』(クロスメディア・パブリッシング)も執筆しました。ぜひ、ご活用ください。
書籍紹介
著者:花岡宏明/飯尾元 定価:2178円(1980円+税10%)
発行:クロスメディア・パブリッシング 発売:インプレス