「地方発全国、日本発世界。」をコンセプトに発足した、LOCAL GROWTH CONSORTIUM(以下、LGC)。2024年4月に書籍を出版。発足イベントとしてゲストを招いたトークセッションを開催するなど、活動を広げています。しかし、旗を掲げるだけでは、何も変わりません。想いを志に変え、アイデアを行動に変え、高い旗を現実に変えてこそ、新しい価値が生まれる。そのためには今後どのような活動が必要なのか。発起人5者が会し、改めて意志を共有しました。
前編では、LGC参画の理由と、出版を通した意識の変化について。私たちのスタート地点を捉え直します。
荻原 猛(おぎわら・たけし)
株式会社ロケットスター代表取締役社長CEO。中央大学大学院戦略経営研究科修了。経営修士マーケティング専攻。大学卒業後、起業するも失敗。しかし起業中にインターネットの魅力に気付き、2000年に株式会社オプトに入社。2006年に広告部門の執行役員に就任。2009年にソウルドアウト株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2017年7月に東証マザーズ上場、2019年3月に東証一部上場。2022年3月に博報堂DYホールディングスによるTOBにて100%子会社化。博報堂グループにて1年間のPMIを経てソウルドアウト取締役を退任。2023年4月に株式会社ロケットスターを設立し、代表取締役社長CEOに就任。50歳で3度目の起業となる。
北川 共史(きたがわ・ともふみ)
ソウルドアウト株式会社専務取締役COO。1984年生まれ。2007年に株式会社オプトへ入社。2010年にソウルドアウトの立ち上げに参画。東日本・西日本営業部長・営業本部長を歴任し、2018年より営業執行役員に就任。デジタルマーケティングの課題解決力を武器に、全国の中堅・中小企業を最前線で支援し続ける。2019年4月より上席執行役員CRO(=Chief Revenue Officer、最高売上責任者)に就任。2021年3月にはグループ執行役員マーケティングカンパニープレジデント、2023年4月に取締役兼CCO、そして2024年4月より専務取締役COOに就任。
真野 勉(まの・つとむ)
株式会社SUPER STUDIO取締役CRO。1987年、東京都出身。青山学院大学を卒業後、 ITベンチャー企業へ入社し、セールスとして同社の東証マザーズ上場に貢献。2014年にSUPER STUDIOを共同創業し、現在はCROとして企業間のアライアンスをリードしている。
山口 拓己(やまぐち・たくみ)
株式会社PR TIMES代表取締役社長。愛知県出身。大学卒業後、山一證券、アビームコンサルティングなどを経て2006年にベクトルに入社。同社取締役CFO に就任。2007年にプレスリリースサービス「PR TIMES」を立ち上げ、PR TIMESの代表取締役社長に就任。2016年3月に東証マザーズに上場、2018年9月に東証一部へ。2020年1月にグッドパッチの社外取締役に就任(22年11月退任)、同年6月に東証マザーズに上場。同年11月に地元豊橋市未来創生アドバイザー就任。
小早川 幸一郎(こばやかわ・こういちろう)
クロスメディアグループ株式会社代表取締役。ビジネス書出版社での編集職を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する事業を行い、社会に新しい価値を提供する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、メディア事業、アクティブヘルス事業を展開中。編集者としては、約30年間で800冊以上の企画・制作に携わる。近年は『新規事業と多角化経営』『人間主義的経営』『これからのデザイン経営』など、最先端の経営をテーマにした書籍の編集を行う。
「地域魅力化」という言葉の持つ磁力
小早川:当社ではビジネス書制作の編集力を生かして、ブランディングやマーケティング、リクルーティングの支援をしています。以前は東京のお客様が大半でしたが、オンライン会議が普及したことで、北は北海道から南は沖縄まで、全国にサービスを展開できるようになりました。
その中で、価値ある商品やサービスを持っているのに、世の中へ上手に伝えることができずに伸び悩んでいる企業がたくさんあることがわかりました。企業の持つ魅力を再表現することで、付加価値をつける。その研究と実践の場にしたいと、LGCに参画することにしました。皆さんが、発起人としてLGCに参画した理由はどのようなことでしょうか。
北川:当社の主な事業は、中堅・中小企業に対するデジタルマーケティング支援です。お客様には地方の企業が多く、LGCのコンセプトとの整合性が高かったことが参画の理由の一つです。
一方で、創業から約15年間事業を続ける中、自社だけでできることの限界を感じていました。LGCで各企業が高い専門性をもって協力することで、お客様に対してより大きな貢献ができる。僕らの力を必要としてくださっている皆さまに声を届けることができるのではないかと感じて、参画を決意いたしました。
真野:我々は、EC構築システム「ecforce」を中心に統合コマースプラットフォームとしてEC運営に関わる様々なプロダクトやサービスを提供しています。ecforceをローンチした当初は東京のお客様が多かったのですが、次第にそれ以外の地域のお客様も増えていきました。もっと多くの方にecforceを知っていただき、EC運営に悩まれている方、もっと事業を成長させたいとお考えの事業者様の成長を支援したいと考えていたときに、LGCのお話をいただきました。自社サービスを多くの事業者様に届けたいという想いもありますが、LGCの取り組みでは、各社のノウハウを掛け合わせ、もっと価値のあることができるのではないかと考えています。
山口:私は以前からずっと「書籍は出したくない」と言ってきました。今回、皆さんとの共著で出版しましたが、その気持ちが変わったわけではありません。それでもなぜLGCに参画したのかといえば、お客様に貢献するための選択肢を狭めてはいけないと思ったからです。
PR TIMESは、サービススタート以来、多くのスタートアップ企業に支えられることで広がっていきました。『週刊東洋経済』の「すごいベンチャー100」やForbes JAPANの「注目の日本発スタートアップ100選」などを見ると、選ばれている企業のうち9割以上がPR TIMESを使ってくださっています。VCから資金調達をしているスタートアップを見ても、同じぐらいの割合。2023年は、東証グロース市場に上場している企業の8割程度が使ってくださっています。
ただ、それは全産業の中のごく一部です。日本にある企業のほとんどが中小企業であり、その多くが地方企業。そこに対しては、私たちのサービスも理念もPRの意義も、届けることができていません。ほかの企業と組むことでより多くの人たちに知ってもらえる可能性が高まるのであれば、そうすべきです。自分たちだけでやるという方法しか考えないのは、エゴかもしれないと思ったんです。
荻原:LGCの「地方発全国、日本発世界。」というコンセプトは、僕にとって人生のテーマと近しいものです。みんなで力を合わせていくことに喜びもあって、ぜひ参画したいと思いました。実際に始めてみて、強い熱量を感じています。4月に開催した発足イベントも、多くの人に参加いただいて大成功に終わりましたよね。
北川:そうですね。皆さんでキックオフをしたときから、「地域魅力化」というキーワードが持つ磁力のようなものを感じています。LGCの活動を知って、応援してくれる方や「地方に興味を持つようになった」といってくれる方がたくさんいます。この磁力を、僕らがさらに大きく強くしていく。そんな活動をやっていいんだという確信と希望を得られたと思っています。
出版は世の中に対する意思表示
小早川:当社では、多くの企業の書籍を出版させていただいています。本を出すということは、世の中に対する意思表示でもあると思います。今回、「地方企業を支援していく」という姿勢を発信したことで、事業やご自身の意識などに変化はあったでしょうか。
北川:当社は「中小・ベンチャー企業が咲き誇る国へ。」というミッションステートメントをもとに活動していますが、これまで、事業の軸に「地方」という言葉を使っているわけではありませんでした。「中小・ベンチャー企業の力になりたい」「その経営者のサポートをしたい」という想いで立ち上がった会社が、自分たちの役割を追求していった結果、地方への展開が進んだという順番だと解釈しています。
そこから、2024年4月に当社の中期経営計画を発表して、ソウルドアウトグループは地域を元気にする会社だと明確にしたんです。事業の最上位に地域の企業様を据えて、自分たちが向かうベクトルはここなのだと決めた。これから、この考えに沿った人事制度などを作る予定ですすべてにおいて地域を主体にした会社に生まれ変わると発表したことで、みんなの気持ちが一つになりました。
そこにLGCの出版が重なり、みんな書籍を読んで「やっぱり、この方向でいいんだ」と言ってくれています。地方拠点のメンバーだけでなく、東京で働く人たちにもその意識が浸透しています。自分たちが事業で得たノウハウは地域を元気にするために使う、そのために、自分たちは東京で頑張る。グループ全体が一枚岩としてぐっと固まったような実感があります。
真野:当社でも、インナーブランディングに効果がありました。我々も、もともと地方を中心に事業を展開しようとしていたわけではありません。ただ、先ほど申し上げた通り、次第に地方のお客様が増えていく中で、社内のメンバーの間でも地方を意識するようになっていたところに書籍が出版されました。「もっと地方のお客様のためにできることがあるよね」「そう、こういうことをしたかったんだ」と言ってくれるメンバーもおり、地方の事業者様を支援していきたいという想いが、メンバーの中でも強まった感覚はありますね。
また、パートナー企業様との関係でもプラスに働いています。「我々も地方に対する想いを持ってクライアントと接している」「我々も参画させてもらえたら嬉しい」といった声を、何社からもいただきました。これまでやってきたことと新しくやっていくこと。社内外を含めた掛け算になっていることは、大きな変化だと思います。
荻原:原稿を書きながら自分の考えを整理すればするほど、改めて認識したことがあります。起業する上で、いまは都心よりも地方のほうが多くのメリットがあるんですよね。
まず、地方にはその土地独自の食材や文化、自然があります。それらを生かしたサービスや商品で差別化を図ることができる。もちろん、人件費や家賃といったコストが安いことも有利です。
それに、地方には経営者を助けてくれる人たちがたくさんいます。僕の出身は宇都宮で、地元の行政や銀行には起業家を育てようという意識が強い。加えて、宇都宮大学が2024年度にデータサイエンスと経営を合わせて学ぶデータサイエンス経営学部を新設するなど、大学も起業家支援に乗り出しています。宇都宮の方から「本を書いてくれてありがとうございます」という反応もありました。
地方で起業と考えると下を向いてしまう人もいるかもしれませんが、状況をよく整理すると、実はチャンスがあるんです。そこにフォーカスすることで、もっと有利な戦い方があると思います。
山口:私は、LGCに参画したことや出版をしたことで、特に意識の変化は感じていません。というのも、私たちは以前から全国に向けてPRを広げていこうと決めていました。2016年から、地方の金融機関や行政、新聞社とのアライアンスを進めています。無反応な状態から一つひとつ積み重ねて、現在46都道府県にまで拡大しています。
日本全国どこでもPRが当たり前になる。どこの地域で働いていても、自分の仕事が世の中に伝わる。PR TIMESはそのためにあると認識しています。地方への展開はもともと通る道であり、さらに世界に広げていきたいと思っていました。そうした意味で、出版は大きな転換点ということではないんです。
小早川:皆さんそれぞれですね。今までやってきたことを再定義できた。自分たちの目指す方向性を固めることができた。自分の考えていたことを改めて確信できた。自分たちが決めた道を進む中での確認作業だった。当社で出版していただいたわけですが、書籍の新しい役割を知ったように思います。
地方の持つ可能性を最大限に開く
小早川:私たちが企業のブランディング支援をさせていただく中で、クライアント企業の持つ歴史や経営者の頭の中を言語化して、情報発信する。そうして地域を超えてビジネスを広げることができる。地方に対して、その価値をより強く伝えていきたいと思います。LGCの活動に興味のある方や書籍の読者に対して、皆さんの専門領域からどんなことを伝えたいでしょうか。
北川:デジタルマーケティングは、すべてが見える化される世界です。何をして、どれくらいの効果が出ているかが明確にわかる。僕らにはお客様の業績に対する明確なコミットメントが求められ、そのための技術を常に研磨しています。デジタルは怖い、わからないといったイメージもあるかもしれませんが、まずその点はご安心いただきたいと思います。また、可視化できるからこそ、限られた資源を有効に活用することができるのです。
真野:地方には、地場の環境や特産品、長い間受け継がれてきた産業や技術などを生かした商品を、ECで販売している企業がたくさんあります。地方の特性を生かし、首都圏でなくても地方からそれらを発信できるのはECの強みです。LGCに関わる企業様と、自社の商品を全国へ、世界へ発信していくためのノウハウを一緒に発見していく。さらにそれを提供していくことで、より多くの企業に貢献できると思っています。
山口:私は、学ばせていただきたいと思っています。PR TIMESを始めたときは、アメリカのモノマネでした。文章は短文で、画像も1枚か2枚。そこから多くのお客様にご利用していただく中で、どんどんリッチコンテンツ化していきました。スタートしたときには、プレスリリースで資金調達を発表したり、プレスリリースがリクルーティングにつながったりするなんて、思ってもいなかったんです。
PRを通してこんなことができるという気付きは、もっともっとあるはずです。LGCの活動を通して私たちが学び、プレスリリースを前進させたい、PRを変革していきたい。皆さんと一緒に、日本から世界に打って出たいと思います。
荻原:地方企業や中小企業の経営者の方々に、孤独ではないと伝えたいです。このような団体が誕生することもそうですし、先ほどお伝えしたように、地方には支援のネットワークがあります。
チームを組んで難局を乗り越えていくことが大事です。他社と、あるいは産官学で連携しながらやっていくことができるのも地方の良さです。より気軽に周囲に相談できる、あるいはアドバイスができる。LGCをそうした場にしていきたいですね。