立山善規(たてやま・よしのり)
株式会社アロットオブ代表取締役。1980年千葉県生まれ。日本大学芸術学部デザイン学科卒業後、雑貨・副資材の企画・製造・OEM会社にて、商品企画開発・デザイン・営業を行い、2006年にプロダクトデザイナーとして株式会社Francfranc(旧 株式会社バルス)に入社。Francfranc商品部でテーブル&キッチンウェアを中心に雑貨全般と家電照明のMD、商品開発、生産管理、VMDまで一貫した業務を経験。また、3年半香港にてアジア店舗への商品供給、アジア工場の新規開拓、海外マーケット販売に携わる。同社で商品部長として雑貨全般を統括した後、2015年に起業し、2017年に株式会社アロットオブを設立。インテリア、雑貨業界の小売・メーカー・商社に向けて、小売製造業で培ったノウハウや知識を元に、商品ブランディング、MD戦略立案から、商品企画・開発・デザイン・VMD・販売まで一貫した業務を行う。2020年に初の自社ブランドとして、「KIKIME」をリリース。現在は、百貨店・専門店でPOP-UP、国内外のインテリア・デザインショップへ卸売、ECによる販売を行っている。
日本の各地方、および地方企業は潜在能力に溢れています。地方企業が持つ商品・サービスの魅力が多くの人に伝わるようになれば、日本中、世界中で暮らす人々に、自慢の商品を手にしてもらい、洗練されたサービスを受けてもらうことができます。
地方企業の潜在能力を信じ、そのポテンシャルの花が咲き誇るように支援したい。そんな想いを共にする5社が集まり、それぞれが持つ専門領域のノウハウを伝える場を設けることになりました。本記事は、3日間にわたって行われたウェビナーのSession3〈第1部〉を記事化したものです。全国へ、世界へと挑戦するためのブランディング戦略について解説します。
※本記事は2024年3月にクロスメディアグループ株式会社、株式会社SUPER STUDIO、ソウルドアウト株式会社、株式会社PR TIMES、株式会社ロケットスターが共同で開催したウェビナー「あなたの商品・サービスのファンを日本全国につくるために、私たちができること」の内容をもとに文章化し、加筆・編集を行ったものです
お客様視点でのものづくりに必要な2つの概念
地方から全国へ、そして世界へ売っていくためには、ブランディングが非常に重要になります。今回は、外部を取り巻く環境やマーケットの変化を掴む方法と、地方企業のブランディングの事例をご紹介します。
まず、外部環境と内部環境という概念が重要です。外部環境とは、「時代背景(人口・世代分布傾向)・社会課題(環境問題含む)」「衣食住の変化」「ライフスタイル・気分の変化」などのことです。内部環境とは、「会社組織」「会社の強み(商品・販路)」などです。
外部環境は、長期傾向と課題やニーズを掴むためにとても重要です。その分析により、社会・マーケットの背景を知り、顕在ニーズ・潜在ニーズの変化を掴み、仮説検証を行い、その先の需要を探る(確率論を高める)ことができます。一方で、多くの因果関係の原因は外部環境ではなく、内部環境にあります。内部の現状を考察し、客観的な視点で定量分析し、強みを探ることで、自社の勝機が必ず見えてきます。
外部環境は、特にものづくりにおいて重要です。どのように自社の強みを最大化していくかを考えるときに、外部環境の影響は避けられません。
例えば、近年では高齢化社会や出生率の問題、人口減少や環境問題などが取り沙汰されています。今後は需要が大きく変化し、こうした課題を背景にした商品やサービスがより求められるようになるでしょう。また、日本の人口は減少していますが、実は世界では増加しています。これからは海外輸出を意識した商品開発や、訪日外国人向けの商品・サービスが必要になってきます。
加えて、地球環境や資源枯渇に目を向ける必要があります。世界人口がこのまま増加推移すると、2058年頃には100 億人に達する見込みです。その100億人に対し、地球約2個分の資源が必要と言われています。今までと同じような商品開発や製造を続けていくと、将来的に資源が枯渇し、商品供給できなくなるだけではなく、環境破壊につながります。
これはものづくりのみならず、人類の中期的な課題にまで発展するでしょう。今から私たちが意識・準備していくことは、商品を買い替えたり、買いそろえたりすることよりも、商品を使い続けることや、資源生産性を考えて資源の再生や修繕(リペア)、部品交換など(リプレイス)をすることです。
一例として、iPhoneの事例が挙げられます。iPhone 13とiPhone14を比較すると、外見や基本スペックに大きな進化はありません。最も大きな変更点は、修理や部品交換、資源再生しやすく内部構造を進化させたことです。またType-Cへ規格統一することで、余っている無駄なケーブルを減らす(資源を確保する)動きがあります。
これは、すでに資源再生への取り組みや資源確保が一歩一歩進んでいる証です。これからの時代には、環境資源を守って人々の豊かな暮らしを維持・向上するために、使い続けられるものづくりやサービスが重要になってくるでしょう。
社会の変化から需要を読み解く
私たちのライフスタイルは、時代とともに変化しています。商品開発においても、生活様式や暮らし方の変化(ライフスタイルの変化)を意識し、対応する必要があります。例えば、新型コロナによる行動制限で在宅勤務の時間が増えたことで、疲れにくいチェアの需要が伸びました。また、共働き世帯が増えている背景から、家事・育児にかかる時間や快適な暮らしやゆとりある時間をつくるために、「時短」や「利便性」を追求した商品の需要が高まっています。
一例として、ネット店舗での購入や、インテリア・家具などを1 店舗でまとめ買いする傾向が高まっています。その理由は、購入時間を減らしたり、商品をまとめて1回で受け取ったりするためであり、時間に対する意識の表れだと言えます。
また、住まいに関するトレンドも、時代とともに変化しています。例えば近年、「リビ充」というキーワードがでてきました。リビングの役割が、テレビ中心のくつろぐための場所から、家族それぞれが仕事・勉強・遊びなど、充実した時間を過ごす「多機能空間」へ変化しています。
住宅の間取りも昭和から平成、令和にかけて見比べると、和室の減少(洋風化)、採光重視の間取り(住環境向上)、家事導線の変化(時短・利便性)など、ライフスタイルの変化に伴い、需要が大きく変化しています。暮らしに身近な商品を提供していく上では、こうした暮らしの変化に注目していくことで、需要の変化を掴んでいくことが重要です。
それから、人々の消費行動・スタイルも変化しています。景気や社会情勢に左右されますが、安ければよいという「安さ納得消費」や、多くの情報を収集してお気に入りを安く買う「徹底探索消費」に比べ、利便性を重視した「利便性消費」や、自分が気に入った付加価値には対価を払う「プレミアム消費」が若干増えている傾向です。
自分に合った賢い消費行動になってきていることは確かで、「使い分け消費」が近年当然になってきていると言えるでしょう。
環境や社会やライフスタイルの変化について、事例を交えお話してきましたが、いずれも持続的な人々の幸福を求めるためであり、今後は心身と社会的な健康を意味する概念「ウェルビーイング」の向上が、より求められていきます。
いま、世界的にトレンドとなっているライフスタイルのなかには、心の豊かさを求めるSBNRの観点によるものがたくさんあります。SBNR とは「Spiritual But Not Religious」の頭文字で、直訳すると「無宗教型スピリチュアル」です。特定の宗教を信仰しているわけではないけれど、精神的な豊かさを求める人を指します。例えば、アウトドアやサウナ、睡眠ケア商品、カルチャーツーリズムやアートなどです。
健康を意識し、自然・歴史・文化に回帰し、自分と向き合い、精神を整え、気分転換する。そうした、「心の豊かさ」を求める人々が増えています。近年欧米を中心に増加し、米国では全人口の5人に1人に達すると言われています。今、世界的に「心の豊かさ」を提供する商品やサービスの需要が高まってきているのです。
ブランド戦略が与える良い影響
次に、内部環境(商品・販売・宣伝)を知り、自社の強みを把握することが、改めて重要になります。「自社が提供できる価値」と「消費者ニーズ」が交わる点を探り、商品・サービスの強みを生かすことが、優位性や差別化につながります。
自社の強みを探る上で、売れ筋や需要が高い商品については、他社でも同じような商品が販売されているでしょう。売上規模が中堅の商品こそ、将来の売れ筋や差別化商品になる可能性があります。中堅商品を探ることと、非稼働商材(在庫過多)を現金化・廃盤にして中堅商品へ再投資することをお勧めします。
また、これまで重視されていたのは、商品やサービスの機能・性能・価格といった、「合理的で機能的な価値」の提供でした。商品の価格やスペック(仕様)によるサービスの比較や差別化がほとんどで、このような「合理的で機能的な価値」は、コモディティ化(一般化)しやすく、価格でしか比較できなくなってきます。
今後は、ブランド・企業の価値提供として、購入するまでの過程・使用する過程・購入後のフォローアップなどの過程における経験といった「顧客体験価値」に加え、「感情的価値」を提供することが、いままで以上に重要になります。「感情的価値」とは、使っていると安心する・使っている私は素敵、嬉しいなど、お客様の感情に響く価値のことになります。
「合理的で機能的な価値」だけではなく、「顧客体験価値」や「感情的価値」を提供するためには、ブランディング戦略が重要になってきます。ブランディングに成功すれば、「お客様」「卸先のバイヤー」「社内(自社)」の三方へ良い影響を与えます。競合と差別化できたり、価格設定に有利になったり、お客様から信頼を得られリピート率向上につながったりします。
さらに、知名度が上がることで、宣伝コストが下がり、自社に好意的な求職者が増え、採用活動に有利になり、結果ビジネスチャンスが広がる好循環が生まれます。このようなブランドの好循環によって企業価値を守り育てることで、「飽きられない」「忘れられない」存在となっていくことでしょう。
ブランドの好循環を生み出していく上で大事なのは、「人や組織」です。好循環を作るためには、商品・販促・販売において一貫したプロセスを組んでいかなければいけません。最近までは、多種多様なブランドや商品シリーズを展開していく傾向がありましたが、それぞれのブランドや商品シリーズごとに商品開発・営業活動・販促活動などの労力やコストが分散してしまい、大変非効率です。ブランドを集約することで、最小の労力で最大効果を生むことができます。企業によっては、少ない人員と限られた資本でも全国・世界へ発信していくことが、より実現しやすくなるでしょう。
今後、全国・世界へ発信していく上で、今まで以上に販路について考えていく必要があります。近年、Eコマース市場が台頭し、伸長しています。コロナ禍で、よりネットで購入する機会が増えました。海外販売(輸出)に向けても、越境ECプラットフォームが増え、物流サービスも整い、海外のお客様へ商品を販売することが容易になってきています。
ここでは日本のお客様に対しての話に留めますが、近年、お客様の消費行動は「リアル店舗」と「ネット店舗」を、商品あるいは利便性によって使い分けるものに変化しています。リアル店舗には、「実物を見て触って買い物できる」「味や香りなどを体験できる」「対話、接客を受けられる」といった体験を求める。一方で、ネット店舗には「24 時間いつでも買い物できる」「まとめて受け取れる」「遠方で行けない場所の商品を買える」「情報収集しやすい」といった利便性を求める傾向です。
商品カテゴリーや特性・サイズによって、それぞれの販路に向き・不向きがありますので、よく検討しながら販売戦略を考えていきましょう。
また、客先オリジナル商品(OEM)生産が多いメーカーにとっては、OEMを誘発する商品企画を行なう必要(売上維持のため)があります。またOEM先の販路とPB品の卸売先販路がとバッティングしていないか、相乗効果を狙えるかなど、より細やかな販売戦略に基づく商品企画が求められます。
このように、地方から全国・海外へ挑戦していく上で、今後はブランディングが重要になってきます。自社の強みを最大化させていくためにも、まず外部環境(社会的な背景や環境問題、マーケット変化など)を掴み、消費者ニーズの変化に対応しなければなりません。その上で、自社の内部環境(商品・販売・宣伝・人・組織)を定量的に分析する。そうして「自社の強み部分」と「消費者ニーズ」のマッチする部分が、今後の提供していくべき価値や商品、サービスになるでしょう。ブランドの好循環を生み出し、全国へ、世界へと羽ばたきましょう。