ECで「モノ」を売る。 地方のコミュニティーに学ぶビジネスの本質

  • 株式会社SUPER STUDIO 真野勉

真野勉(まの・つとむ)
株式会社SUPER STUDIO 取締役 CRO。1987年、東京都出身。青山学院大学を卒業後、ITベンチャー企業へ入社し、セールスとして同社の東証マザーズ上場に貢献。2014年にSUPER STUDIOを共同創業し、現在はCROとして企業間のアライアンスをリードしている。

ECの本質的な課題に対し、統合コマースプラットフォーム「ecforce(イーシー・フォース)」の開発・提供やEC運営のサポートを通じて「EC活用の民主化」に努めてきたSUPER STUDIO。これまで都心部を中心にビジネスを展開していましたが、近年は地方でもサービスの導入が広がっています。地方のEC事業には、どのような魅力や可能性があるのか。また同社取締役 CRO・真野 勉 氏が地方企業に触れて感じた、都心部の企業が学ぶべきこととは

ECで地域のモノの魅力を伝える

私たちは、2017年頃からecforceのサービス提供を開始し、EC(eコマース:インターネット上での売買)運営の支援なども行ってきました。多くの企業にecforceを導入いただく中で、地方企業、中でも福岡では、全国的には有名でなくとも通販大手と呼ばれる会社が多数あり、地方には「良いモノ」を持っていらっしゃる企業が多いと感じました。独自の技術でつくった商品やその地域でしか採れないもの、中には特許を取っている商品などもECで販売されています。
その地域ならではの商品は、これまで地元でしか提供されていないことが多かったようですが、現在はECを活用してビジネスを拡大していきたいという企業も増えています。私たちは、そうした地域ならではの商品が、全国や世界へと広がっていくことに可能性を感じています。
いま、世の中にはさまざまな商品が溢れています。モノを売るためには、売り手・作り手が商品に込めた思いやこだわり、製造過程をもっと表現するべきです。
弊社のサービスであるecforceは、自社でECを運営できるカートシステムです。企業が消費者にダイレクトに商品を売る意味は、ブランド独自の世界観や価値を伝えることにあると思います。これからは、ECを通してブランドの「世界観」を消費者に伝えることが、ブランドのファン獲得へとつながっていくでしょう。ECモールではなく、自社ECだからこそつくれるユーザーとのコミュニティーがあります。その魅力を伝えて、地方企業の方々と一緒に成長していきたいと考えています。

現場の感動が参入ハードルを下げた

地方の企業へecforceを紹介し始めたときは、「使い慣れてないから」「いま使っているもので十分だから」と断られることがよくありました。やはり、新しいものを取り入れることに対する抵抗感が大きかったのでしょう。ただ、企業が抱える流通や人材不足の課題は大きく、そのソリューションとしてecforceを導入していただけるようになりました。

企業に出向いてecforceについて説明すると、現場の方々に非常に喜んでいただけました。EC事業では、配送する受注リストを決まった時間までに物流側へ連携しなくてはいけません。事業者の現場の皆さんは、そうした配送手配を行うためのシステムを利用されていますが、従来のシステムでは処理の負荷が大きかったり、作業に何時間もかかったりするのが実態でした。特に一日に何千・何万件ほどの商品を出荷する場合は指定された時間に合わせるのが大変で、担当の方が早朝に出社して対応しているケースもありました。
それらの作業を、ecforceでは数分で終えることができます。実際にecforceのデモを行うと、「朝早く起きなくていいんですか?」と驚かれました。リソースを多大に投下している業務を効率化できるというところに、一番魅力を感じてもらえたのだと思います。こうしたデモを通じて、当初ecforceに抱いていた抵抗感をなくしていくことができたと実感しています。

求められるのは、便利なシステムと丁寧なサポート

ECは、いかにお客様が買いやすい状態をつくるか、つまり購入体験をシームレスにすることが重要です。しかし、これまでのEC業界では、その仕組みがあまり考えられていないうえに、ツールが分断されていました。
ecforceは、私たち自身が自社D2C事業としてEC運営している経験をもとにこのほうが買いやすい、使いやすいというアップデートが日々行われています。ページの構成はもちろん、電話番号や住所入力の操作性といった細かいところから、EFO(エントリーフォーム最適化)といわれる分野まで、一貫して解決できます。

ecforceを導入すると皆さん喜んでくれるのですが、同時に継続的なサポートも行ってもらえるのかと聞かれます。顧客のアフターケアが大切なのは全国どこでも変わりませんが、都心部に比べて地方では特に強く要求されたポイントです。
私たちもサービスを導入して終わりではなく、しっかりアフターケアを提供したい。そこで、弊社はCS(カスタマーサクセス)の種類を幅広く用意しています。
例えば、当初はメールのみで問い合わせを受けていましたが、いまは電話やChatworkなどでも受け付けており、細かい対応は顧客によって変えています。

どうやって地方へ入り込むか?

特定の地域でビジネスを展開しようとするとき、そこにはすでに多くの関係者がいるため、その地域特有の関わり方があります。どのように人との関わりをつくっていけばいいのか。例えば、お祭りやイベントなどに参加してみたり、地元に長く住んでいる方に地域の文化や歴史を聞いてみたり、
コミュニティーの中に入り込んで情報を得ることで、そこから新しいつながりが生まれ、ビジネスの糸口になることもあります。

地域特有の文化は、ビジネスにとってプラスの面もあります。例えば、東京では自社のノウハウや情報などを企業同士で共有しないことが多いですが、九州では、周りの企業へと共有する傾向があります。「みんなで広げていこうよ」という価値観で、競合同士であっても情報を交換します。そうした関係性から、ecforceを導入してくださった企業が、周りの同業者の方にご紹介してくれることもあります。

地方でビジネスを広げるメリット

東京では、同業他社で競い合う構図が多く見られますが、一方で地方は企業同士のコミュニティーがあり、情報を共有し合っているため、良い意味で均衡が保たれます。百年以上も続く企業が多い理由の一つなのかもしれません。

また、地方では同業他社へ頻繁に勉強しに行く文化があります。九州のEC業界でいうと、大手企業を訪問したり、他社の社内ツアーに参加したりすることが多いようです。経営者の方からも、「ほかの企業の思想を学びに行くんだ」という話をよく耳にします。勉強熱心な企業が多く、常に最新の情報をキャッチしようという姿勢があります。一方で、熱意がある人は多いのに、学ぶ機会がまだまだ足りていないと感じる企業もいます。そこで弊社では、少人数の勉強会やセミナー、交流会などの複数の企業が交流できる機会を提供しています。そのイベントに参加された方々がまた仲間を呼んでくださるので、どんどん輪が広がります。
参加者の方にお話を聞いてみると、従来、業界の若手の方が集まる場はそう多くなかったようです。情報交換を軸とした交流の機会は実際に参加された方の反応も良かったので、今後も継続していこうと思っています。

私たちは、営業活動を地方に拡げた当初から、対面のコミュニケーションを重視してきました。定期的に顧客を訪問すると、「東京の人は会いに来てくれない人が多いけど、御社は会いに来てくれる」と言っていただけることが多くありました。都心部に比べて地方企業への参入のハードルはありましたが、人とのつながりのおかげで自分たちと近い考えを持つ方々と出会い、人の輪を広げることができたのだと思います。

より多くの人へECを

弊社の顧客は30~40代で起業した方が多く、導入していただくうちの9割は新規でEC事業を始める企業です。もともと都内部を中心にビジネスを展開していましたが、弊社代表の林がある企業を紹介していただいたことがきっかけで地方へと拡げ、その後も顧客の紹介を通じて地方での導入企業が増えていきました。
現在は、ウェブマーケティングなども活用しながら、主に新しくEC事業を立ち上げるときやEC運営に失敗したとき、もっと本気でECに取り組みたいという段階でecforceを導入していただくケースが増えてきています。
これからは、ターンアラウンドやECを導入していない層にもアプローチしたいと考えています。既存商品の売り上げを高めたい企業だけでなく、一点突破で良い商品をつくって広げたいという企業にも貢献していきたいです。
また、東北などほかの地域にもecforceの導入を広げていきたいと思っています。地方のEC業界にはすでに大きな成功を収めている企業もあります。その姿を見て、「こうなりたい」と思っている若い経営者や起業家はもっといるはずです。こうしたさまざまな目標を持つ企業や経営者の方にECのノウハウやecforceについて伝えていきたいと思っています。

地方のビジネスは人と人とのつながりが深い

近年、特にIT系の分野では東京などの都心部が注目を集めがちですが、地方から学ぶべきことはたくさんあります。一番は、お客様への寄り添い方です。弊社がアフターケアを強く求められたことからも感じましたが、地方の企業では、人と人との触れ合いを大切にしていると感じます。あるコールセンターでは、商品についての話だけではなくお客様の人生相談に乗ることもあるそうです。そうして、知り合いに勧められたからと、同じ商品を定期購入している方もいいます。


都心部では、何かと生産性や効率が優先されがちですが、人と人との触れ合いを大事にする、この考え方こそが、ビジネスに差を生んでいるのではと思います。地方の企業の方々と触れ合う中で、改めてECは、お客様とつくり上げていくビジネスであると感じました。
本来ビジネスというものは、そこに人の思いが乗るものです。その原点に立ち返り、人との深いつながりを築く大切さを、都会のビジネスパーソンや経営者は学ぶべきではないでしょうか。

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