地方に熱狂と誇りを。周囲を巻き込む「ブランディング」の力

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第12回公開シンポジウム「ブランド・マネージメントアワード」イベントレポート

ブランディング実践者に光を当てる

ブランド・マネージャー認定協会が主催する第12回公開シンポジウム「ブランド・マネージメントアワード」が2024年11月24日(日)に開催されました。

同協会は、代表理事を務める岩本俊幸さんが日本で唯一のブランド・マネージャー養成機関として2008年9月に立ち上げました。「ブランディングで地方から日本を元気にする」ことを目指し、優秀なブランド・マネージャーを輩出し続けています。

「ブランディング事例コンテスト」は協会の第5回シンポジウムで初めて開催されました。今回から名称とロゴを”リブランディング”し、ブランディング実践者の活躍に光を当て、その重要性を一層発信していく決意が示されています。

基調講演 東京にもパリにもない、一粒1000円のライチ

シンポジウムは、齋藤潤一さん(一般社団法人こゆ地域づくり推進機構代表理事)の基調講演からスタートしました。齋藤さんも同協会でブランディングを学んだ一人で、地域経済の再生に取り組んでいます。

齋藤さんが2017年にブランディングを手がけたのは、宮崎県新富町原産の「新富ライチ」です。ゴルフボールより2周りも大きく、真っ赤な皮の中に白くてプリプリの実が詰まったライチは、包丁を入れるとピシャっと果汁が弾け、甘くて濃厚。1粒1,000円という価格ながら、ふるさと納税サイトで予約完売するほどの人気ぶりです。

ブランディングは「何をするか」よりも「何をしないか」が重要だと齋藤さんは語ります。ライチの価値向上に貢献したのは、「売らない」場所を決めたことでした。

「ふるさと納税と空港以外では売りません。このライチは東京でもパリでも食べられないんです。だからこそ、『ぜひ新富町に来てください』と言える」

このライチを求めて、名前が言えないほどの有名な方がわざわざ食べに来ることもあるそうです。

2019年には、スタートアップ企業「AGRIST」を立ち上げ、新富町を拠点にスマート農業を全国で展開しています。さまざまな活動を通して地域課題の解決に取り組む齋藤さんは、そのメソッドを「発見→磨く→発信」に集約できると言います。地域の魅力を発見し、磨き、発信するというシンプルなサイクル。しかし、そこには「必ず失敗するパターンがある」と釘を刺します。

「『うちの地域はいいものがあるんだけど…』と”発信”で止まる。『かっこよくデザインしてもらったけど売れなくて…』と”磨く”で止まる。『イベントやったんだけど…』と”発信”で止まる。このサイクルは、継続することが一番重要なんです」

講演で齋藤さんが繰り返したキーワードは、「連続性・継続性・一貫性」でした。「しないこと」を決め、すると決めたことはとにかく継続する。「成功事例として紹介させてもらっていますが、いまも必死ですよ。でも、スティーブ・ジョブズの名言にあるように、うまくいったかは後にならないとわからない。まだまだチャレンジは続きます」

大賞受賞事例 一人の「へべす」愛が熱狂に変わるまで

ブランド・マネージメントアワードは、協会の養成講座を受講した方々にブランディングの実践事例を募り、会場とオンラインの投票で大賞・準大賞を決定します。今年大賞に輝いたのは、株式会社コムデザインラボ代表取締役・高木純さんの事例でした。

生産量の少なさから「幻の柑橘」とも呼ばれる「へべす」。宮崎県日向市が原産の柑橘です。高木さんがブランディングに携わったきっかけは、へべす大使第1号である女性の依頼だったそうです。九州を離れると誰もへべすを知らない。幼少期から親しんできたへべすの魅力を伝えたいと、女性から相談を受けたのが2019年頃のことです。

へべすには、なかなか認知されない3つの課題がありました。1つ目は販売シーズンが短く、プロモーション期間が旬の夏に限定されること。2つ目は知名度が低く生産農家が少ないこと。極めつきは、焼き魚に添えられるだけの脇役で、地味なイメージが定着していたことでした。

高木さんはまず、ブランドアイデンティティを『晴れやかな柑橘』としました。日照時間が長い宮崎と、柑橘の爽やかで明るいイメージを表現しています。目指したのは、天気と特別な日を掛けた「ハレの日」にふさわしいブランド。箱に入った贈答用のへべすは、箱入り娘にも重なります。

「日向市には嫁を嫁がせる時にへべすの苗を持たせる風習があったそうです。そのため、各家庭の庭先にはへべすの木が植えてありました。だから日向市民にとって、へべすは買うものではなかった。「流通しなかった」へべすの歴史的背景が、ブランディングのヒントになりました」

商品名は地域性とプレミア感を演出し、「日向(ひむか)へべす」と命名。

「宮崎県、日向市のどちらにもご協力いただけるように、『ひむかの国宮崎』と『日向市』の二つの意味を持たせました」と、緻密な戦略をのぞかせます。

販売シーズンが短いという課題は、加工品の開発で解決しました。旬を過ぎても加工の材料として使えるため、計画的かつ安定的に生産できます。近年は新規参入する就農企業が増加し、作り手不足の解消にもつながりました。

ブランディングを始めてから5年経ったいま、マルシェの出店では朝から行列ができる人気ぶりです。看板商品の「黄金へべす鯖寿司」は相場の4倍以上の価格設定にも関わらず、毎回完売しているそうです。

このプロジェクトは一人の女性のへべす愛から始まりました。「一人の熱量を多くの人の熱狂に変えるのがブランディングだと学びました」と高木さん。来年春には、日本初のへべす専門店がオープン予定だそうです。

成果を生み「喜び」を共有するコミュニティ

受賞者の発表に続き、審査委員長を務めた特別顧問の田中洋さんから講評が述べられました。候補者へのねぎらいとともに語られたのは、ブランド・マネージメントアワードが感動を呼ぶのはなぜか、です。

「みなさんは、自社の利益だけではなく、地域や社会のためになろうと活動されています。その結果、地域の方々に『シビックプライド』をもたらしている。だからこそ、人の心を打つのでしょう」

閉会の挨拶では、顧問の長崎秀俊さんが、地域に根差したスポーツチームとブランディングには共通点があると語りました。

「教え子が転職して3部リーグのバスケットチームで働き始めたそうです。地域の人とつながりを持ち、非常に楽しそうに仕事をしている様子が印象的でした。規模の大小に関わらず、まず始めてみる。周囲の人を巻き込み進んでいく、よい事例だと思いました。今日発表されたみなさんの活動と同じですね」

今年も多くの感動を呼び、シンポジウムは盛大に幕をとじました。代表理事の岩本俊幸さんは、協会の意義はこの「喜びの共有」にあると振り返ります。

「ファイナリストによるプレゼンは、何年もかけて取り組んだ努力の結晶が凝縮されていて、心震えるものがあります。ブランド・マネージャー認定協会は、単なる資格認定や講座提供の場ではありません。実践を通じて成果を生み出し、その喜びを共有するコミュニティです」

来年は、11月1日(土)に第14回シンポジウムの開催が予定されています。

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