長寿企業こそ日本の宝:前編┃2024年、老舗企業が発展していくために必要なこと

  • ソウルドアウト株式会社  鷹觜愛郎

鷹觜愛郎(たかのはし・あいろう)
ソウルドアウト株式会社 チーフクリエイティブオフィサー。2011年、東日本大震災を支援する「浜のミサンガ」で仙台クリエイターオブザイヤー・グランプリ受賞。2014年、「rice-code」がカンヌ、ロンドン、ニューヨークADC、ADSTARS、スパイクス等で世界の最高賞を受賞。その他施策合わせて78の海外賞受賞。東京在籍後も、地域課題と向き合うクリエイティブを実践。趣味はDJと落語。

今、老舗企業の経営は日本の大きな課題であり、国も支援体制も整えつつあります。廃業を選択する老舗企業が毎年ある一方で、堅実な黒字経営を続ける100年企業や、再成長の軌道に乗った老舗企業も存在しています。この厳しい環境の中でも変わらず自己変革を続け、飛躍を遂げる老舗企業にはなにがあるのでしょうか。
成長を志す地方を含む日本全国の中小・ベンチャー企業のネットビジネス拡大を支援するソウルドアウトと、「編集力でビジネスの可能性を拡げる」を掲げる出版社のクロスメディアグループが、老舗企業経営者向けに老舗が変革を遂げる術を紹介します。

本記事は3部構成になっており、前編では、老舗企業のリブランディングについて、デジタルの視点からひも解きます。

※本記事は2024年1月24日にソウルドアウト株式会社と株式会社クロスメディア・マーケティングで共催されたウェビナー「ザ・地方創生~老舗企業が遂げる変貌~」の内容をもとに文章化し、編集を行ったものです

日本は世界一の老舗大国

日本には、創業100年以上の企業3万3076社あり、世界の41.3%を占めます。これが200年以上になると1340社で、驚くべきことに世界の65%(帝国データバンク、ビューロー・ヴァン・ダイク社Orbisの企業情報〈2019年10月調査〉より)。また、日本で昭和に創業された企業は全体の56%で、76万3000社です。これに昭和以前に創業した企業を含めると、全体の6割を占めます(帝国データバンク「COSMOS2企業概要ファイル」より)。日本は、世界一の老舗大国なんです。

こうした老舗企業の成長には、D2C型リブランディングが必要だと考えています。D2Cとは、卸や小売りに商品を預けるのではなく、主にインターネットを使ってお客様に直接商品やサービスを届けることです。

老舗企業のお客様の年齢層は60~70代であることが多く、今後も企業として成長を続けるためには、D2Cを取り入れたリブランディングによって、次の世代もお客様にしていく必要があります。その具体的な事例についてお話していきます。

雪深い福井県鯖江に、増永眼鏡様という老舗企業があります。鯖江にメガネフレーム産業そのものをつくり、2023年には、映画『おしょりん』の題材にもなりました。創業は1905年で、まさにものづくりジャパンの代表格といえます。昭和天皇がかけていた丸いメガネも、ドラマ『教場』で木村拓哉さんがかけていたクールなメガネも、増永眼鏡様のモデルです。

多くの老舗企業では、長い歴史の中で複雑に重なる課題を抱えています。

増永眼鏡様も、同様でした。最も大きな課題は、お客様が高齢化しているということです。それに、メガネ業界では大きなモデルチェンジがありました。コンタクトレンズが生まれ、メガネのフレームは需要が大きく減りました。その後、メガネが低価格化する時代に突入してチェーン店の売り上げが伸びています。

増永眼鏡様は、近年は直営店を持たないと難しいということで東阪名に複数の店舗を出していましたが、首都圏での集客手法が定まらない。デジタルに関してもネットショップの設計やリアル店舗への来場促進、SNSの対応など、どこからどう手をつけるべきか?解決の道筋が定まらないという状況でした。

 

老舗企業が抱える三重苦

 

ずっと愛してくれる大事なお客様が高齢化していて、新しいお客様にシフトできていない。事業を成長させるうえで重要な、デジタルの活用に着手できていない。そうしているうちに人口が減少し、既存のマーケットが縮小している。日本の地域の老舗企業の多くは、こうした三重苦を抱えています。
2020年、老舗企業の倒産や休廃業数は過去最多と報告されています。地域の老舗企業の多くは、新たな取り組みができず、ビジネスが縮小していくジレンマを抱えているのではないでしょうか。どうやってお客様を若返らせるか、デジタルにどこからどう着手していくか、これから先のビジネス成長をいかにつくるか。増永眼鏡様のケースは地域の老舗企業が抱える課題そのものだったと思います。

増永眼鏡様は地域の雄ですから、いろいろなメディアや取引先を通じて、デジタルの獲得施策やコンサルティングの提案などはありました。ただ、全体最適のための手段が見えず、具体的に決定できなかったのではないかと思います。例えば「テレビで認知を増やしましょう」「獲得広告を回しましょう」「リレーションマーケティングをやりましょう」といった部分最適には手をつけにくいのです。
そこで、私たちは複雑な老舗企業の課題を全部まとめて解決するご提案をしました。まず、老舗企業の未来について、アイデアだけでなく、明確な数字を示しました。また、ネットやテレビの広告運用といった部分だけを提案するのではなく、企業がどんな未来を描いているのかを把握するため、徹底的にヒアリングをし、工場も見学しました。そのうえで、ROAS(広告の費用対効果)やROI(投資収益率)といた明確な成長数字を、達成に無理のない範囲で提案をしました。

リブランディングの具体的取り組み

では、具体的にどんなリブランディングをしたのか。
まず、ロゴのリニューアルです。従来ロゴは「MASUNAGA since 1905」というテキストのみのシンプルなものでした。これではちょっと目立ちません。誰もが知るハイブランドのようなロゴが欲しいと思い、「増永」と「眼鏡」の頭文字「M」が二つ重なってメガネのフレームになるというデザインを考えました。

リブランディングのコピーは、「この国の新しい顔をつくれ。」です。新しくターゲットとなる世代は、軽々と海外へ進出し、大活躍しています。増永眼鏡様も海外マーケットで高い人気を誇るブランドです。世界に挑む新しい「日本の顔」を一番目の前、つまり眼鏡でサポートするブランドになろうという思いを込めています。
ブランドムービーには、ヒューマンビートボックスのワールドチャンピオン、SHOW-GOさんを起用しました。ソーシャルメディアの時代では、誰もが自分で情報を選んで見ることができます。ブランドが言いたいことを一生懸命伝えても、見てもらえません。ブランドムービーは広告の要素をすべて捨て、ミュージックビデオのようにつくりました。また、アーティストのサイトから発信を始めるという試みにも取り組みました。

ショッピングサイトは、「老舗企業の未来空母」をイメージしています。動画見たさに、ショッピングサイトへ着陸してもらおうという考えです。世界でトップランクのメガネフレームのブランドストーリーを丁寧に説明し、増永眼鏡様に対する興味や好意、愛着をつくっていく狙いです。
あえてランディングページを設けず、サイト上で認知からブランド理解といった設計をつくり込んでいます。さらには、お勧めモデルへの誘導やオンラインでの試着体験も用意して、ネットで購入するまでの流れをつくっています。メガネは個々人の視力に合わせた調整が必要など、ネットだけでは簡単に買えないので、直営店へ送客する仕組みも配置していきました。
老舗企業に大事なこととして、未来の顧客台帳の作成があります。昔には「火事が起きたら、千両箱を持てなくても、顧客台帳を持って逃げた」といわれていたくらい、お客様の名簿は本当に大事なものです。
私たちは、これをデジタルに一本化することを勧めています。デジタルで台帳をつくり、リピートにつなげ、もっとファンになってもらうためのコミュニケーションを徹底的に行っています。
ターゲットのリブランディングはもちろん大切ですが、守り続けてきたお客様とこれから増えていくネット時代のお客様を橋渡しする、新しい時代の顧客台帳を老舗企業と一緒につくり太らせていく。そういう道筋を照らしていきたいと思っています。

フルファネルでの課題解決を

このようなリブランディングで、お客様の平均年齢が55~70歳くらいだったところを、30歳ほど若返らせることができました。現在、リブランディングの効果で動画は200万回以上再生され、新しいファンがサイトを訪れるようになり、ネットショップ・直営店ともに売り上げに非常に大きな数字が生まれています。

私たちは、老舗企業の「D2C×リブランディング」を成功させるメソッドとして、フルファネルマーケティングを提案しています。部分ではなく、長い時間軸で顧客との関係を深め、「知る」から「ファン」になるまでを生み出すことです。

ネットで新しいお客様を見極め、動画で認知をつくる。来店してくれた方には、一番のコアバリューである老舗企業のものづくりのすごさを伝えて。興味・関心を持ってもらう。そうして強引にではなく、納得の顧客獲得をつくっています。また、買って終わりではなく、リピートやアップセル、そして、本当にブランドを好きになったお客様が人に紹介するファンベースの構築も生み出す。部分最適ではなく、全体最適のご提案をし、並走しています。

長年暖簾を掲げる老舗企業は、非常に強い商品基盤と手堅いお客様をすでに持っています。ただ、時代によってコミュニケーションの舞台は変わります。江戸時代なら歌舞伎小屋、明治初期なら新聞や教育図書、そこからラジオやテレビが主役だった時代を経て、今は間違いなくデジタル・スマートフォンの時代です。私たちと一緒に、時代に合わせて価値を磨き直し、複層型の課題を一気に解決していきましょう。

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