三浦和樹(みうら・かずき)
株式会社PR TIMES執行役員・カスタマーリレーションズ本部本部長 。
1994年東京都出身。明治大学法学部を卒業後、新卒でPR TIMESに入社。 入社2年目で「PR TIMES TV/LIVE」の責任者となり、翌年からは新設されたPR TV事業部の部長に。 その後営業本部を経て、カスタマーリレーションズ本部アクティブサポート担当マネージャー、22年9月にはカスタマーリレーションズ本部長。 23年4月に同社初の新卒出身かつ20代社員として執行役員に就任。趣味のキックボクシングで心身を鍛える。夏が苦手。
日本の各地方、および地方企業は潜在能力に溢れています。地方企業が持つ商品・サービスの魅力が多くの人に伝わるようになれば、日本中、世界中で暮らす人々に、自慢の商品を手にしてもらい、洗練されたサービスを受けてもらうことができます。
地方企業の潜在能力を信じ、そのポテンシャルの花が咲き誇るように支援したい。そんな想いを共にする5社が集まり、それぞれが持つ専門領域のノウハウを伝える場を設けることになりました。本記事は、3日間にわたって行われたウェビナーのSession1〈第2部〉を記事化したものです。「PR・広報」の視点から、地方企業の魅力を伝える方法を解説します。
※本記事は2024年3月にクロスメディアグループ株式会社、株式会社SUPER STUDIO、ソウルドアウト株式会社、株式会社PR TIMES、株式会社ロケットスターが共同で開催したウェビナー「あなたの商品・サービスのファンを日本全国につくるために、私たちができること」の内容をもとに文章化し、加筆・編集を行ったものです。
PRは「あなたを愛している」を行動で示すこと
私たちは、PRを次のように定義しています。
「PRとは、企業とそこに所属する個人にとって大切な存在との間でなされる、お互いに有意義な関係を築くためのコミュニケーションを起点としたあらゆるプロセスです」
大切な存在とは、メディアであり、顧客であり、顧客の顧客であり、従業員であり、これから入社する学生でもあります。こうした存在との間でなされるコミュニケーション、つまり「話す」もしくは「聞く」を起点としたあらゆるプロセス・思考・行動、これらすべてがPRです。
本日は、PR TIMESが考えるPRの考え方やコツについて、事例を交えて紹介していきます。
一般的に、広告は「Buy me(私を買って)」を伝える、PRは「Love me(私を愛して)」を伝えると言われます。しかし、私たちは「Love you(あなたを愛している)」を行動で示すことが重要だと思っています。「大切なあなたに矢印を向けています。あなたに対して矢印を向けたからこそ、こんな活動をしています」というスタンスです。
例えば、「よなよなエール」というビールを作る長野県のヤッホーブルーイング様は、ビールと卒業証書が入ったセットを贈る「隠れ節目祝い」というキャンペーンを行いました。対象は子どもの授乳やイヤイヤ期、寝かしつけを卒業したお母さんなどです。
子どもが保育園に入学したといったわかりやすい晴れの日だけでなく、隠れた小さな節目も大切にしよう。ビールが飲めるタイミングになったのだから、ぜひよなよなエールを飲んでくださいとプレゼントしました。
これが「Buy me」のスタンスであれば「お酒が飲めるタイミングになったのだから、自分たちのビールを飲んでください」、「Love me」のスタンスであれば「お酒が飲めるタイミングになったので、 先着でビールをプレゼントします」というコミュニケーションになるでしょう。一方、「Love you」のスタンスでは「ささやかな節目もうれしいですよね、一緒にお祝いしたいので、ビールをプレゼントさせてください」ということになります。
よく「共感が大事」と言いますが、相手に共感してもらう前に まずは自分たちが大切にしたい存在に共感することが重要です。
次に、メディアに対してのアプローチを考えてみましょう。「Love you」の「あなた」とは、メディアでもあります。
「Buy me」や「Love me」のスタンスだと、「自分たちの発信準備が整ったタイミングで出す」「自分たちの都合がいいときに出す」ことになってしまいます。「Love you」の精神では、メディアがニュースをつくりたいタイミングを想定して「新聞はこういうタイミングで記事を書きたいですよね」「テレビだったらこういうタイミングで情報を知りたいですよね」ということを考えます。プレスリリースをいつから書けばいいか、どこまで書いておけば当日すぐに出せるかを逆算して行うことで、効果的な広報活動ができるんです。
知名度もブランドもないサービスを届けるには
知名度もブランドもないサービスが、どのようにしたら世の中に行き渡るのかを知りたいという方は多いでしょう。ここでは、そのティップスをいくつか紹介します。
まず、世の中の事象や事業に名前(カテゴリ)をつけることです。
例えば、先ほどご紹介したヤッホーブルーイング様は、「隠れ節目祝い」とネーミングしました。また、岡山県に魚介類の加工販売を行う邦美丸様という企業があります。同社は、注文分以上には魚を取らずに漁場を確保するというサステナブルな取り組みをしており、「受注漁」と名付けています。 福岡県のコウダプロ様は「子どもがいる家庭では甘口のカレーしか食べられないけど、実は大人は刺激の強いカレーを食べたい」という悩みを「家庭内カレー問題」と名付けました。甘口のカレーに振りかけて本格的なスパイスカレーができる「大人のカレースパイス」を販売しています。
このように、社名やサービス名、ブランド名や施設名でなく、事象や事業に名前をつけたり、カテゴライズしたりするのは面白いアプローチでしょう。
また、地方企業においては、地方紙との関係構築が大事です。
地方紙の地元での普及率は、いわゆる全国紙を上回ります。地域に根付いたニュースであれば、全国紙は写真なしの短い記事になる場合でも、地方紙なら写真付きの大きい記事になるかもしれません。また、マスメディアはお互いの媒体を参考にしています。新聞が取り上げている記事に テレビ局が目をつけることもあれば、テレビでやっていたことを新聞記者が深掘りしに行くこともあります。そうしたきっかけで、自社のサービスがテレビに出ることもあるかもしれません。
次に、 元日経ビジネスの編集長であり、ワールドビジネスサテライトの編集員である山川龍雄さんのブログから、「旬サイ、寒ブリ、ハツ鰹」というキーワードを紹介します。
メディアでは「自己最高」「地域最低価格」「10年ぶり」「日本初」「世界初」などといった表現がよく現れます。一例として、ビジネスで世界初や日本初を目指すのはかなり厳しい戦いになりますが、その地域初であれば うたいやすくなるのではないでしょうか。地方の企業様こそ「最」「ぶり」「初」に着目してもらえたらと思います
生成AIを活用して主観と客観を行き来する
次に考えるのは、主観と客観を行き来することです。まずは主観をとにかく意識します。自分の考え・経験・やりたいことを振り返り、自分にとって大切な想いを掘り下げる。一方で、 本当にそれは誰かを幸せにするのか、または不幸せを解決するものなのかと客観視する。いくつもの角度から見ることによって、その物事の本質が見えやすくなります。
では、その概念をプレスリリースの執筆においてどのように活用するか。
一つは、生成AIに執筆をアシストしてもらうことです。私が提唱したいのは、生成AIにメディアになりきってもらい、取材されるとしたらこんな質問が来るな、と想像しながら逆算思考でプレスリリースを書くことです。
例えば、当社では障害当事者の社員を採用し、社員が育ててアレンジした花を社内外の大切な方へ贈るという取り組みを始めました。その際、AIに「経済新聞記者として、この企業活動についてのニュースをつくるために、質問を5つしてください」と指示しました。
すると、「なぜやろうと思ったのか」「社内外の誰に花を贈るのか」「花を社内外に贈るプロセスとは」「将来的にどうしたいか」などの質問が上がってきます。これらの質問に回答することで、メディアが取り上げたい情報を含んだプレスリリースをつくることができます。
また、生成AIにメディアになりきってもらうことで、こんなメリットもあります。
まず、メディアが気になる情報を予習することができます。例えば新聞に載りたいのであれば新聞記者に、テレビに出たいのであればディレクターになりきって書いてもらいます。
また、代表や開発担当者など、広報ではない人に取材する質問が揃います。例えば「社長 、これを埋めておいてもらえれば、いいプレスリリースが書けるのでご協力お願いできますか」ということですね。
これなら、広報担当1人で手が回らなくても、行動の当事者が質問に答えていく形で埋めていけば、プレスリリースのコアな部分が書けるようになります。
世界で一番大切にしたいたった1人を想像して考え抜く
続いて、世界で一番大切にしたいたった一人を想像して考え抜くことも大事です。
「誰でも満足する」「誰でも使えます」とアピールすると、共感の度合いも広く浅くなってしまうかもしれません。他の誰でもない、世界で一番大切にしたい人を想像して、その人が強烈に共感するイメージをもって、考えてみてください。
先ほどの「大人のカレースパイス」も、開発者が子育て中の同僚の悩みを聞き、なんとか解決してあげたいと思って生まれたものです。そうした共感から、メディアの共感が連鎖することもあります。
この事例は、西日本新聞でも取り上げられています。
“化粧品・健康食品開発のコウダプロ(福岡市)は今月、甘口のカレーにふりかけると本格的な辛みや香りが楽しめる「大人のカレースパイス」を発売した。子育て中の社員が発した「家でも本格的なスパイスカレーが食べたい」との切実な声がヒントになった商品。唐揚げなどカレー以外の料理にかけても味の変化が楽しめる。(後略)”
※西日本新聞記事『甘口カレー、味変スパイスで大人向けに 福岡の企業開発、きっかけは子育て社員の声』より一部抜粋
他社のプレスリリースを参考にする
PR TIMESは最も他社の利用例を見やすいサービスの一つです。ぜひ、他社のプレスリリースを「タテヨコナナメ」で読んでみてください。
タテとは時間軸で見ることです。例えば、上場企業は上場前にどんな企業活動をしていたのかが分かります。
ヨコとは、競合・意識している企業を見ることです。「あの企業は事業のプレスリリースも組織のプレスリリースも出しているから、自分たちもそれぞれ情報提供していかないと!」など参考にできます。
ナナメとは、かけ離れた業界のリーディングカンパニーを見ることです。「自分の業界でもあの取り組みをやったら喜んでくれる顧客がいるのではないか」という発想につながります。
さらに、プレスリリースとニュースを見比べて「 視聴者をつかむフック」を知ることが大事です。
まず、自社が関係を築きたいメディアのニュースは必ずチェックします。そして、プレスリリースから何が抽出されているかに注目します。メディアが最初の数秒で何を伝えているか、記事であればタイトルに何が書いているか、テレビであれば最初のナレーションで何を言っているか。これらを見て、自分たちのプレスリリースが報道されるところを想像してみましょう。
視聴者をつかむフックとは、時流/季節性、新規性/独自性最上級/希少性、逆説/対立などです。
例えば 、神奈川県にある創業80年の住宅建材会社、神谷コーポレーション様はオフィスで完全フリーアドレスを導入したというプレスリリースを出しました。これは「逆説」です。歴史ある企業がなぜ今フリーアドレスなのか、という違和感を持ってもらう狙いです。また、宮崎県のLOCAL BAMBOO様は、ANAの 国際線ファーストクラスの機内食に自分たちのメンマが提供開始されたというプレスリリースを出しました。エグゼクティブに採用された「希少性」を強調しています。
今日のまとめです。PRは「Love me」でなく「Love you」で考える。主観と客観を行き来する。 世界で一番大切にしたいたった一人のことを想像して、考え抜きましょうということをお話ししました。弊社のカスタマーサポートではプレスリリースを出すタイミングや原稿の内容などご相談を承りますので、ぜひご活用ください。