福井県の小さなユニフォーム販売代理店が、東証上場を果たし、売上100億円を超える企業へと躍進を遂げた――。
空前のユニフォームブームが起きたわけでも、奇をてらった広告がバズを生んだわけでもありません。「経営の戦略を知り、それを着実に実行しただけです」と、ユニフォームネクストの横井社長は淡々と語ります。
もともとは年商わずか6,000万円。そんな地方の零細企業が、いかにして全国で勝てる企業へと変貌を遂げたのでしょうか。そこには、大企業のセオリーを覆す「非常識な戦略」と、泥臭く地道な実践の積み重ねがありました。
【プロフィール】
横井 康孝(よこい・やすたか)
ユニフォームネクスト株式会社 代表取締役社長
福井県生まれ。金沢大学卒業後、総合スーパーの平和堂に入社。その後、父親が創業した社員数名のユニフォーム販売会社(現・ユニフォームネクスト)に入社し、10年後に社長就任。ランチェスター戦略に出会い、多角化していた事業を整理。「飲食店ユニフォームのネット通販」に一点集中し、大手が避ける手間のかかるサービスを徹底する「弱者の戦略」で急成長を遂げる。地方の小さな会社でありながら売上を大幅
に伸ばし、2017年に東証マザーズ(現・グロース市場)へ上場。現在はベンチャー塾や会社見学会を通じて、中小企業経営者に戦略の重要性を伝えている。著書に『小さな会社は戦略が9割』(2026年発刊)。
「商品が豊富」は本当に正解か?
私が入社した1997年当時、福井に本社を置くユニフォーム販売代理店「ユニフォームネクスト」(当時の社名は株式会社ワイケー企画)の年間売上は、わずか6,000万円程度でした。メンバーは、父親である社長、営業の先輩、事務員さん、そして私のたった4名。25歳だった私には経営の知識などまったくなく、とにかく「ユニフォームはいりませんか?」「作業服はありませんか?」と、先輩以上に泥臭く飛び込み営業に走る毎日でした。
地道な新規開拓が実を結び、売上は1億円、1億5,000万円と順調に拡大。入社から10年が経った2007年には、売上2億円にまで成長しました。現在、当社の主力事業となっているEC(ネット通販)販売を開始したのも、ちょうどこの頃です。

2017年まで使われていた旧社屋(写真:ユニフォームネクスト提供)
当時、「どうすれば検索上位を取れるか」を模索していた私は、SEOに詳しい知人の力を借りてWEBサイトの最適化を進めました。すると、わずか1年ほどで検索上位を独占できるようになり、ECだけで月500万円の売上が立つようになったのです。
この成功を機に、私たちはECでの売上をさらに爆発させるため、「3つの大きな決断」を下しました。その第1の決断が、「商品数をあえて減らす」ことでした。
一般的にECビジネスでは、豊富な商品ラインナップを揃えることが王道とされています。「商品を多く掲載すれば、それだけ売上が増える」という考え方は、当時も今も主流です。しかし、ユニフォームの世界においては、その常識が通用しません。
たとえば、画面上で「この防寒具はカッコいいからこれにしよう」と注文しても、届いてみたら思ったより薄手で寒さをしのげなかった、ということが起こり得ます。よく似た白いコートが5つ並んでいても、厚みや肌触り、機能性の違いは画面越しではなかなか伝わりません。

ただでさえ違いがわかりにくい商材なのに、選択肢が多すぎれば、お客様は何を選べばいいか迷ってしまいます。結果として、用途に合わない商品を選んでしまうリスクも高くなります。
そこで私たちは、もともと抱えていたラインナップを10分の1以下へと大胆に絞り込みました。「厨房で働く人はこれ」「接客担当の人はこちら」と用途別のナビゲーションも明確にして、お客様が「画面上でも迷わずに選べる」ことを最優先事項にEC改善を進めたのです。
ネット販売にも「営業部隊」が必要
2つ目の決断は、ECシフトを進めるなかでも「営業部隊をなくさない」ということでした。ECの売上が急増した当時、周囲からは「営業部隊はもう不要ではないか」という声が上がりました。売上の大部分はECが占めており、対面営業による売上貢献度は低くなっていたからです。
しかし、営業部隊は残すと決めました。なぜなら、ユニフォームを購入する「お客様の生の声」を最も深く理解しているのは営業担当者だからです。
先にお話ししたように、私も、もともとは営業担当をしていました。営業の現場では、お客様がカタログを前に「どれを選べばいいのかわからない」と頭を悩ませる姿を何度も目にしてきました。これはWEBサイトでも全く同じです。

現場の営業がいれば、「どのような用途で使っていますか?」「お仕事されるのはどんな環境ですか?」とヒアリングし、「それなら、この2つがおすすめです」とプロの提案ができます。お客様の大半は、この提案に納得して購入を決めます。
営業部隊が聞く、お客様の迷いやお困りごとは、ECサイトのユーザーも同じように感じているはずです。導線設計や商品説明にそうした情報から得た改善を加えることで、画面上でもお客様が迷わない工夫を施すことができます。
これは、ただ直接話を聞けば良いというものではなく、長年の営業ネットワークがあるからこそできることです。新規参入のプレイヤーには真似できない、私たちの大きな強みとなっています。
事業も顧客も「既存」に振り切る
3つ目の決断は、新規開拓よりも「既存顧客」を極限まで重視するという舵切りです。2000年代後半、当社の売上は順調に伸びていましたが、手元には利益がほとんど残っていませんでした。原因は、新たな顧客層の獲得を狙って、新規事業ばかり立ち上げていたことです。
当時はホームセンター向けのユニフォーム卸売、洋服のお直し、イージーオーダースーツの販売、さらにはWEBサイトの立ち上げ支援まで、幅広い事業を手掛けていました。たしかに顧客層は広がった。一方で、管理コストやオペレーションの負荷が増えていました。それはもはや会社の“成長”ではなく、ただ組織とリスクが膨れ上がっただけの“膨張”した状態でした。

一般的に、新規顧客を獲得するためには、既存顧客を維持するのに対して5倍から10倍のコストがかかると言われています。価格訴求など小手先で新規顧客を得ても、定着はしません。安さに集まった顧客は、いつかまた安さで離れていきます。
利益が出ず、コストと借金が膨らむばかりの状況から脱するため、私たちは「すべての新規事業をやめる」という決断をしました。なかには月100万円以上の利益を出しているビジネスもありましたが、すべて撤退しました。
経営リソースをユニフォーム販売の一点に再び集中させる。この決断をしたことで、既存のお客様へのサポートの質を圧倒的に高めることができるようになりました。
新規注文は「断る」
既存顧客に注力するうえで重要なのが「問い合わせ対応」です。ユニフォームは毎日、しかも長期にわたって着用するものだからこそ、お客様には心から納得して選んでいただきたい。「期待外れだった」と思われれば次はありません。しかし、問い合わせへの対応次第で、一転して熱狂的なリピーターになっていただくこともできるのです。
たとえば、お客様から「サイズが合わなかった」「思っていた生地の厚みと違った」という問い合わせがあった際、「返品を受け付ける」だけではお客様は離れてしまいます。返品対応とともに、より適した商品への「交換をご提案する」ことが重要です。このプロセスを丁寧に踏むだけで、商品とサービスの良さを実感していただくことでき、「またここで買おう」と信頼につながります。

この既存顧客への問い合わせに徹底してお応えするために、私たちは「新規注文は断る」ことも徹底しました。もちろん、顧客基盤ができていない時期であれば、新規の注文は受けるべきでしょう。しかし、すでに多くの既存顧客を抱えている状況では、目先の新規対応に追われて既存のお客様へのサポートがおろそかになっては本末転倒です。せっかく他の事業を整理した意味がなくなり、長期的な戦略ではなくなってしまう。
戦略を実行すると決めたなら、貫く。大企業のような資本力がない零細企業だからこそ、徹底した「選択と集中」の実行力が、私たちの推進力となりました。
ユニフォーム以外は、まだやらない
多くの経営者は、経営戦略の重要性を少なからず学んでいると思います。しかし、私が見てきた限り、頭では理解していても実行に移せる人はわずかです。今は書籍やセミナーなど、経営を学ぶ機会は溢れていますが、実行のイメージが湧かなければ、どれも机上の空論で終わってしまいます。
しかし、戦略ひとつで会社の未来は180度変わる。これが私の実感です。ユニフォームネクストは、「ランチェスター戦略(弱者の戦略)」を忠実に実行してきたことで、売上6,000万円の零細企業から100億円企業へと地道に成長することができました。その経営人生の紆余曲折をまとめた書籍(『小さな会社は戦略が9割』)を発刊できたことも、戦略の正しさを証明できた証拠だと自負しています。

次は2029年までの3年間で売上倍増の200億円を目指し、1,000億円規模に達したタイミングで海外進出を見据えています。昔とは比較にならないほど成長した今でも、「ユニフォームに付随する新しい商材を扱いませんか」と提案をいただくことが多々あります。しかし、ユニフォーム以外は、まだやらない。
商材の拡大や新規事業への進出は、“いつでも切れるカード”です。そのカードを切るべきタイミングは、今ではない。私たちはこれからも、他社の追随を許さない圧倒的な1位を目指し、あくまで「ユニフォーム」を軸足に、愚直に成長を追求し続けていきます。